研究課題/領域番号 |
20J22568
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
菓子田 惇輝 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 元素置換 / ペンタレン / 燐光 / OLED |
研究実績の概要 |
本研究では、非ベンゼノイド型π共役骨格を母骨格とし、その炭素-炭素結合を等電子的かつ高度に分極したホウ素-窒素結合(BN結合)で置換した新しい分子システムの構築と機能開拓に取り組んでいる。令和2年度は、反芳香族分子の一つであるペンタレンの炭素骨格を全てBN結合に置き換えたBNペンタレンの合成に取り組んだ。同様な形式で元素置換された誘導体の合成は過去に一例のみ報告されているが、同定にはNMRデータのみが報告されており分子構造の詳細や電子物性が不明であることに加え、空気や水に対して不安定であることが予想された。そこで本研究では、嵩高いメシチル基を導入し安定化したBNペンタレン新規誘導体を設計した。当初、設定した合成反応が思うように進行せず合成は困難を伴った。検討の結果、ビス(アミノボリル)ヒドラジンを合成中間体として用いる新しい合成経路により、目的とするBNペンタレンの合成に成功した。この誘導体は、空気や水に安定であり、カラムクロマトグラフィーによる精製が可能であった。単結晶X線回折測定にも成功し、BN置換ペンタレンの分子構造と結合状態の詳細を初めて明らかにすることに成功した。量子化学計算によってBNペンタレンの電子構造を評価したところ、大きなHOMO-LUMOギャップをもつ閉殻構造を有することを見出した。この化合物の吸収・発光特性を調査したところ、短波長の吸収、蛍光ピークを示すことに加え、低温溶媒ガラスマトリクス中で、発光極大394 nmの燐光発光を示すことを見出した。この結果は、本化合物が高エネルギーな三重項励起状態を有することを示している。この特性を利用することで、BNペンタレン誘導体を、燐光発光色素を用いた有機発光ダイオード素子のホスト材料として利用できることも明らかにした。本成果は第101日本化学会春季年会において口頭発表するとともに、学術論文の投稿を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、新規BNペンタレン誘導体の合成、電子機能、および発光素子応用に関する研究を実施した。炭素-炭素結合がすべてB-N結合に元素置換された誘導体の合成は、メチル基が置換した誘導体が報告されているが、分子構造と電子物性は全く明らかにされておらず、またこの誘導体は空気中で加水分解することが予想された。そこで本研究では、嵩高いメシチル基を導入し、空気や水に対して安定なBNペンタレン誘導体の合成を目指した。種々の検討の結果、ビス(アミノボリル)ヒドラジンを合成中間体として用いる合成経路を開拓し、メシチル基置換BNペンタレンの合成に成功した。得られた誘導体は空気や水に対して高い安定性を示し、単結晶X線回折により分子構造と結合状態の詳細を初めて明らかにすることに成功した。炭素骨格ペンタレンと異なり、BNペンタレンは大きなHOMO-LUMOギャップを有する閉殻化合物であった。このような電子構造に由来して、BNペンタレンは短波長の吸収ピークと蛍光を示すことに加え、液体窒素温度での溶媒ガラスマトリクス中で、発光極大394nmに燐光発光を示した。これはBNペンタレンが高エネルギーな三重項励起状態を有していることを示している。励起状態計算により、蛍光および燐光発光に関わる遷移を帰属することにも成功した。BNペンタレンの高い三重項励起状態を活かし、OLEDのホスト材料として用いる検討も開始した。令和2年度は、BNペンタレンを、緑色燐光色素を用いたOLED素子のホスト材料として用いたところ、高効率な発光素子として動作することを見出した。以上の成果は学術論文としてまとめ、投稿を準備中である。このように本研究では、新たな元素置換π共役化合物の合成と素子応用まで研究を推進し、元素置換π共役系の化学を発展させることができた。よって、研究の進捗状況は「当初の計画以上に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は前年度に進めたホウ素-窒素置換ペンタレンのさらなる誘導化を図り、青色に発光するOLED素子においても高効率な発光を得ることが可能なホスト材料としての研究を推進するとともに、申請書に示したホウ素-窒素置換アズレンなど、他のホウ素-窒素置換非ベンゼノイド骨格の合成とその芳香族性や発光特性などの調査を中心に研究を展開する予定である。このホウ素-窒素置換アズレンの合成は2-アリルピロールより4段階での合成を試みる。具体的には三塩化ホウ素と2-アリルピロールとの反応より得られるボリルピロール誘導体に対してアリルすず試薬によりアリル基を導入し、さらにオレフィンメタセシス反応により含ホウ素-窒素7員環骨格を構築する。そして脱水素反応により含ホウ素-窒素アズレン骨格を構築する合成ルートを計画している。合成した化合物については、単結晶X線結晶構造解析により分子構造や結合状態を明らかにする。ここで対象としている化合物は、励起状態においてBaird則に従う励起状態芳香族性を発現しうる化合物であるため、その励起状態における電子状態について、過渡吸収スペクトルをはじめとした分光測定にTD-DFT法などを用いた理論的手法を組み合わせ、詳細に検討する。さらには昨年度合成を達成したホウ素-窒素系ペンタレン合成の際の副生成物を利用し、炭素骨格を全てホウ素-窒素結合に元素置換したホウ素-窒素系アズレンの合成および機能開拓も行う予定である。
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