研究課題/領域番号 |
20J22603
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山内 悠至 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 機能的セルオミクス法 / 神経ネットワーク / 線虫 / オプトジェネティクス / Cre-lox組換え / 変異lox配列ライブラリ / ハイスループットシーケンサー(HGS) / 機械学習 |
研究実績の概要 |
神経ネットワークは、記憶や認知などの複雑な高次生命現象を創出する。しかし、神経ネットワークと高次生命現象の連関は未だほとんど解明されていない。そこで、本研究では行動と神経ネットワークの関係を網羅的に解明するための新規方法論「機能的セルオミクス法」の開発を行っている。本法では、生物の中で唯一全コネクトーム(個々のニューロン同士の接続関係)が明らかになっている線虫をモデル生物とした。光活性化型オプシンを線虫ニューロンに様々なパターンでモザイク発現させた線虫ライブラリに対し、一斉に光照射を行い目的の行動をした線虫を選抜後、オプシン標識ニューロンの同定を行うことで、行動と神経ネットワークの連関を解明できる。 以前までに、線虫への光活性化型オプシンのモザイク発現およびオプシンモザイク発現線虫ライブラリを用いた産卵行動を司るニューロンの同定に成功している。しかし、線虫におけるオプシン標識率が30%と高く複数のニューロンの機能を個別に解析することは困難であった。 2020年度は、オプシン標識率の自由な制御を可能にし、複数のニューロン機能を詳細に解析可能とすることを目的に研究を行った。機能的セルオミクス法では、線虫ゲノムに導入したlox2272配列のCre認識率がオプシン標識率を決定している。そこで、lox2272配列に対して網羅的に変異導入を行い、変異lox2272配列ライブラリを構築した。その後で、各変異配列をCre切断させ、個々の変異配列の切断率をハイスループットシーケンサーで評価した。さらに、評価した約2000個の変異配列のCre切断率を学習データとして機械学習モデルを構築した。この機械学習モデルでテストデータを評価したところ、高い精度(R>0.9)で予測することができた。このモデルを使用すれば全lox2272配列の認識率を予測し、任意のオプシン標識率を達成可能であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
私は、現在線虫の神経ネットワークと行動の連関の網羅的な解析を志向した機能的セルオミクス法の開発に取り組んでいる。前年度までに、本法の基盤となる線虫への光活性型チャネルロドプシン標識のモザイク化を完了している。さらに、チャネルロドプシン標識線虫を用いて産卵行動を司るニューロンの同定に成功している。しかし、チャネルロドプシン標識率は約30%と多数のニューロンが標識され個々のニューロン機能の詳細な判別は困難であった。そこで、本年度は、チャネルロドプシン標識率を自由に制御可能とし、個々のニューロン機能をより詳細に解析できるようにすることを目的として研究を推進した。私は、チャネルロドプシン標識率を制御しているlox2272配列に対し網羅的な変異導入をした変異lox2272配列ライブラリそれぞれのCre認識率をハイスループットシーケンサーで評価することで、様々な割合で認識率の低下した2000以上の変異体配列取得に成功している。さらに、これらの各変異体の切断率を学習データに用いて未評価のlox2272配列の切断率を予測可能な機械学習モデルの構築を行った。ハイスループットシーケンサーで評価した変異lox2272配列約2000個からランダムに1000個を学習データとしてガウス過程モデルを構築し、学習データには使われなかった変異体100個のテストデータのCre認識率を評価したところ、非常に高い精度(R>0.9)で予測が可能なモデルの構築に成功した。この学習モデルを使用すれば全lox2272配列の認識率を予測し、任意のオプシン標識率を達成可能であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、以下の3点について研究を推進する。 【1】変異lox2272配列を用いた線虫での自由なオプシン標識率の達成:様々なCre認識率を持つ変異lox2272配列から10個程度の変異体を選択し、各変異lox2272配列を持つ線虫株を構築する。構築した線虫株に対してCre誘導を行い、各線虫株を共焦点顕微鏡観察して、オプシン標識率を算出する。用いた変異lox2272配列のCre認識率に対応したオプシン標識率を達成できていることを確認する。 【2】ヒト培養細胞での変異lox2272配列のCre切断率の評価:近年、ショウジョウバエやマウスなどの線虫よりも高等な生物において、脳機能をシングルセルレベルで解析するための脳sparse labelingが行われている。しかし、従来法では、標識率の自由度が低い、標識率の変更が困難といった問題点があった。そこで、変異lox2272配列を用いたエフェクター標識率の制御が、線虫以外の生物にも適応可能であること示す。10種類程度の変異体を選択し、各変異配列を持つHEK293株を構築する。各HEK293株に対してCre誘導後、FACSによって各HEK293株のCre切断率を算出する。 【3】線虫タッチレスポンスに関与する主要ニューロン機能のシングルセル解析:オプシン標識率の自由な制御が可能な線虫ライブラリを用いて、タッチレスポンスに関与するニューロン機能の個別解析を行う。線虫タッチレスポンスに対する反応は、主に6つの感覚ニューロンを中心とした神経ネットワークにより制御されているが、その計算原理はほとんど未解明である。そこで、オプシン標識率約16パーセントとなる線虫ライブラリに対して個別に線虫に触覚刺激を与え、刺激に対する忌避応答をカメラで記録する。その後、線虫を共焦点顕微鏡で観察してオプシン標識ニューロンを同定して、個々ニューロンと行動の対応付けを行う。
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