研究課題/領域番号 |
20J22607
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北尾 晃一 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 内在性レトロウイルス / 転写後遺伝子発現制御 / RNAエレメント / RNA結合タンパク質 / トランスポゾン / ゲノム進化 |
研究実績の概要 |
2020年度は、syncytin以外にSPRE様配列をもつ内在性レトロウイルスの同定を目指した。内在性レトロウイルスを含むリピート配列のデータベースであるDfamを対象とした配列解析により、これまでに少なくとも5グループの内在性レトロウイルスがSPREをもつことを確認していた。一方で、相同性は比較的低いものの、SPREと同じ配列特徴をもつ配列を多数見逃している可能性もあった。このような問題を解決するため配列探索法の改良を行った。その結果、様々な哺乳類ゲノムから同定された数百の内在性レトロウイルスのコンセンサス配列にSPRE様配列が見られること、SPREが3つの短い配列モチーフで特徴づけられるという結果を得た。さらに、同様の探索を既知の全ウイルス配列に対して行ったところ、SPRE様配列は見つからなかった。また、SPREを哺乳類約300種と鳥類約500種のゲノムを対象に探索したところ、哺乳類では、ほぼすべての種に多数のSPRE様配列が見つかったのに対し、鳥類からは見つからなかった。これらの結果は、1)SPREをもつレトロウイルスは哺乳類に活発に感染し、盛んに内在化していたものの、2)SPREをもつレトロウイルスは何らかの理由により絶滅した(もしくは未発見である)という興味深いシナリオを示唆している。また、配列解析と平行してSPREの分子性状解析を行った。その過程で、SPREによる遺伝子発現促進活性が、レポーターとする遺伝子によって大きく異なるという予想外の知見を得た。さらなる解析により、PRE活性は翻訳領域の塩基配列に依存していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度は、内在性レトロウイルス遺伝子の転写後発現制御を担うRNAエレメントであるSPREの進化的な起源を探る研究において期待以上の進展があった。当初の配列解析により、SPREはごく一部の内在性レトロウイルスが持つと想定していたが、SPREが非常に短いために技術的な困難があり、多くの類似配列を検出できていない恐れがあった。そこで、異なる解析ツールを組み合わせたワークフローを構築し、内在性レトロウイルスを含むリピート配列のデータベースに対してSPREの探索を行った。その結果、異なる数百の内在性レトロウイルスのグループがSPREを持つことが明らかとなった。また、約800種類の哺乳類と鳥類のゲノムを対象にした探索により、SPREが哺乳類ゲノム特異的に存在し、そのコピー数は多い種で数千コピーにのぼった。この結果は、SPREをもつレトロウイルスが哺乳類ゲノムに多数内在化するほど過去に繁栄していた可能性を示唆する。一方で、SPREは外在性レトロウイルスからは見つからなかったことから、SPREをもつレトロウイルスは絶滅した、もしくは見つかっていないという2つの可能性が考えられた。また、SPREの分子レベルでの機能解析においては、SPREの翻訳領域の配列依存性という予想外の性質を発見できた。また、RNA プルダウン法のプロトコールの改良によりSPRE結合タンパク質同定の目処が立ち、こちらも期待通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、1)哺乳類ゲノムを対象としたSPREとレトロウイルスの進化の解析および、2)SPRE結合タンパク質の同定を行う。1)について、昨年度の哺乳類ゲノムから見つかっている内在性レトロウイルスのデータベースを対象とした研究により、SPREは100種類以上の内在性レトロウイルスに保持されていることが明らかとなった。この事実は、SPREが多くの内在性レトロウイルスにとって機能的に重要な役割を担っていることを示唆しており、SPREのようなRNAエレメントが数千万年にわたる哺乳類レトロウイルスの進化に関わっている、という興味深い可能性を提示している。したがって、ゲノム解析によりSPREがどのような哺乳類の内在性レトロウイルスにみられるのか、SPREをもつレトロウイルスはいつ活発に活動していたのか、といった進化上の疑問に対して、ゲノム配列解析を主とした研究を継続して行う。2)について、上記の配列解析により、これまでSPREと定義していた約70塩基の配列中に、3つの保存されたモチーフがみつかった。このモチーフはSPRE結合タンパク質の認識配列である可能性が高い。そこで、野生型SPREと保存モチーフに変異を導入したSPREを用いてRNAプルダウン法を実施し、野生型SPREに特異的に結合するタンパク質の同定を行う。さらに、in vivoでの結合の確認、候補タンパク質のノックダウンによりSPRE活性が減少することの確認などを実施し、結合タンパク質レベルでのSPREの分子メカニズムの解明を目指す。
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