研究課題/領域番号 |
20J22648
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 紗代 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 低密度リポタンパク質 / PCSK9阻害薬 |
研究実績の概要 |
近年、低密度リポタンパク質(LDL)が、コレステロールや中性脂肪などの脂質のみならず、一部の脂溶性薬物についてもその運搬体として機能し、LDL受容体を介した薬物の組織移行に関わることが示された(Yamamoto et al., Sci Rep. 2017)。これを受けて本研究では、LDL受容体を介して細胞内へ取り込まれた薬物の細胞内挙動・効果の強さを明らかにすること、PCSK9阻害薬併用をはじめとする脂質代謝の変動が、薬物の体内動態及び効果の強さに及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。 令和3年度は、まず、LDLに取り込まれやすい薬物(LDL分布率の高い薬物)の探索を行った。野生型マウスに対し各種薬物を経口投与し、得られた血清から、PEG沈殿法によりLDL分画を分離した。分離したLDL分画中の薬物濃度及び分離前の血清中薬物濃度をLC-MS/MSで定量することにより、LDL分布率の高い薬物を複数見出すことに成功した。 また、蛍光顕微鏡で観察可能な蛍光薬物を用いて、LDL受容体を介して細胞内移行した薬物の細胞内挙動の観察を行った。In vitroで調製したLDL分布型蛍光薬物をLDL受容体が発現している細胞に添加し、蛍光薬物の細胞内局在を観察したところ、LDL分布型薬物が特定のオルガネラに集積する可能性が見出された。 さらに、LDL分布型薬物と遊離型薬物の薬効強度の違いを評価するのに先立ち、LDL分布率の高いいくつかの薬物について、培養細胞を用いた薬効評価系を構築した。これに次ぎ令和3年度中に薬効強度の違いを解析できた薬物のなかには、LDL分布型薬物と遊離型薬物の薬効強度に顕著な差が認められたものもあった。今後は順次、LDL分布率の高い薬物について薬効強度の違いに関する解析を進め、薬物の細胞内への取り込み様式の違いにより薬効強度に違いが生じる可能性について詳細に検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、脂質代謝の変動の影響を受けやすいことが想定される薬物として、マウスin vivoにおいてLDL分布率の高いいくつかの薬物を見出すことに成功した。また、蛍光薬物を用いたLDL分布型薬物の細胞内局在の観察では、LDL分布型薬物が特定のオルガネラへ集積する可能性が見出された。LDL分布型薬物と遊離型薬物の細胞内局在の違いが、今後検討を進めていく予定である薬効強度の違いの一因になっている可能性は高いと予想され、本研究に推進力を与える重要な知見が得られたものと考えている。さらに、LDL分布率の高いいくつかの薬物について、薬効評価系の構築が進んでおり、LDL分布型薬物と遊離型薬物の薬効強度の違いに関する評価を順次実施していくことが可能となった。 このように、脂質代謝変動が薬物の体内動態及び薬効へ及ぼす影響の解明に向けて、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、脂質代謝の変動の影響を受けやすいことが想定される薬物として、LDL分布率の高いいくつかの薬物を見出した。今後は、令和2年度に作出済みのPCSK9高発現マウスを用いて、LDL分布率の高い薬物とPCSK9阻害薬の薬物間相互作用を検討する。具体的には、PCSK9阻害薬併用群と非併用群における血清中薬物濃度や肝臓中薬物濃度を比較することを計画している。 また、令和3年度に引き続き、LDL分布率の高い薬物について、培養細胞にLDL分布型薬物を添加した場合と遊離型薬物を添加した場合での薬効の強さを比較し、違いが認められた場合には、そのメカニズムについて、細胞内局在の違いも念頭に置きつつ詳細に検討していく予定である。
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