研究課題/領域番号 |
20J22659
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
手良村 知功 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | DNAバーコーディング / 遺伝的多様性 / 深海性魚類 / ギンザメ科 / 全ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
本年度は舞阪を中心とする静岡県内の市場や石巻を中心とする東北沖のサンプルを収集した.その中には日本初記録となる魚種が2種含まれており,各分類群の専門家とともに和名をつけて報告した.また,舞阪で得られた魚については,静岡県沖遠州灘初の深海魚類相目録という形でPlankton & Benthos誌に投稿・受理された.石巻沖においても海域初記録レベルの魚種が現時点で20種近く出現しており,その報告論文を準備中である.これら新しく得られたサンプルについても引き続きDNAバーコーディングとMIG seqを用いた種内多様性の探索を行っている. また,本年度は日本産ギンザメ目魚類の標本収集を行った結果,約40年ぶりの追加標本であるジョルダンギンザメや水深1000m以深にのみ分布するムラサキギンザメなどの生鮮サンプルを入手することができた.これによりギンザメ科魚類2属6種と未記載種の可能性がある2標本の遺伝子解析が可能となった.また,テングギンザメ科魚類2種(クロテングギンザメとテングギンザメ)を入手することができた.これらについて,各種のCOI領域を取得し,遺伝子データベース(NCBIとBOLD)に登録されている海外産ギンザメ科魚類との遺伝子比較を行ったところ,ギンザメ科魚類には未知の4系統が存在することが分かった.そこで,ギンザメ目魚類各種についてX20-30のillumina short readシーケンスを取得し,全ゲノムおよびミトコンドリアゲノム規模の系統解析を試みた.特に全ゲノムデータからは9万9千SNPと2817遺伝子の2つのデータセットを作成し,Supermatrix系統樹とSupertree系統樹を作成した.その結果,いずれの系統樹でもギンザメ科内に4つの系統が存在することが示唆された.また,現在支持されている2つの属(アカギンザメ属とギンザメ属)は単系統にはならなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020度は主にCOI領域によるDNAバーコーディングとMIG seqによる種間比較を試みた.その結果,ギンザメ科魚類2種に隠蔽種の可能性が示唆されたことから,本年度より日本産ギンザメ科魚類に注目した遺伝解析を試みてきた.既に2020年度の段階でPacBioロングリードシーケンス(70X depth)とde novoアッセンブリを行い,ギンザメの参照ゲノム配列を取得することができていた(総塩基長:1.2 Gbp;Scaffold数:7,977; Scaffold N50:0.545 Mbp).そこで,本年度はその他のギンザメ科魚類のゲノムデータを取得して,全ゲノムレベルでの種間系統解析を試みた.その結果,ギンザメ科の2隠蔽種は全ゲノムレベルでも区別できることが確認でき,さらにこれら2種の形態的な比較からも2種が異なる可能性を示唆した.これによりDNAバーコーディングとMIG seqで示唆された隠蔽種を,全ゲノムレベルの遺伝子データと形態データによって未記載種であることを確かめた初の研究例となる.今後,本研究が新たな分類学的研究アプローチのモデルになることを期待している.またギンザメ科魚類以外サンプルも順調に集まっており,DNAバーコーディングとMIG seqも引き続き解析を続けている.つまり,日本産深海性魚類全体のゲノムデータも日々蓄積されているため,おおむね順調に研究課題が遂行されていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
一昨年度はギンザメのロングリードデータから全ゲノム配列を決定された.昨年度は他のギンザメ科魚類のショートリードゲノムデータを取得し,ギンザメの全ゲノム配列をもとに,各種の全ゲノム系統解析を行った.そこで,本年度は各種の全ゲノム系統解析の結果をもとに,ギンザメ科魚類の種間でどういったゲノム構造が異なるのかといった比較を計画している.具体的には既に決定したギンザメのアセンブリゲノムと既に取得済みのRNAトランスクリプトームデータから遺伝子予測を行う.それらから種間で共通するオルソログを取得し,系統解析と遺伝子ごとの構造的な差異を検出する.これによって,種分化に寄与した遺伝子を予測する.また,2020年度に決定したギンザメのゲノム配列についても,より長くつながったゲノムを目指して,Hi-C法を用いたスキャフォールディングと核型解析も計画している.これにより,全頭亜綱では初めてとなる,染色体構造が推測できるゲノム配列が取得できる. また,DNAバーコーディングとMIG-seqについては,種内変異についてより深堀した解析を行う予定である.例えば,黒潮―親潮流域といった,深海性魚類相の変化がある場所をまたいで分布する種に注目し,種内に異なる集団が検出されるかどうかを検討していく予定である.加えて,昨年度発表予定であったDNAバーコーディングとMIG-seqの結果から,日本産深海性魚類に見出された隠蔽種の可能性を示唆する論文を完成させる予定である.
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