申請研究は日本近海の深海性魚類の種多様性解明に向けた2つの研究を行った.まず,一つは日本近海の深海性魚類における種多様性を,従来の形態学的解析とミトコンドリアDNAのCOI領域によるDNAバーコーディングとMIG-seq法によるゲノムワイドSNP解析によって再評価した.その結果,48科115種のCOI領域を用いたミトコンドリアDNA(mtDNA)のDNAバーコーディングによって各種の種内変異を調査し,4種について隠蔽種が含まれることを示した.そして,MIG-seq法を用いたゲノムワイドSNP解析によって,4隠蔽種の核DNAにおける遺伝的な分化の有無と形態的な特徴について調査した.その結果,いずれの種もmtDNA,核DNA,形態のそれぞれに違いが見られたため,これらが未記載種であることを明らかにした. もう一つは,日本各地から得られた代表的な深海性魚種を対象とした集団構造解析やゲノム解析を行なうことで,日本の深海域における魚種多様性の特徴を記載した.まず,11科11種のMIG-seq法による種内のゲノムワイドSNP解析を行った.その結果,5種について台湾―日本間における遺伝的な分化が生じていることが明らかになった.この5種のうち,日本近海における種レベルの固有性が高いギンザメに注目し,近縁種8種とともに全ゲノム配列を読み取った.これら合計9種のゲノム配列とDNAデータベースに登録されている国外産種の配列から系統解析を実施した結果,既存の分類で知られている2つの属(ギンザメ属とアカギンザメ属)はそれぞれ単系統群を形成せず,それらとは異なる4つの系統に分けられる可能性が示された.そして,この4系統全てが分布する海域は世界的にも日本近海だけであることも示された.このことから,日本近海はギンザメ科魚類の種多様性・系統的多様性の高いホットスポットであることが明らかになった.
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