研究課題/領域番号 |
20J22665
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 圭一郎 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 扁桃体海馬野 / 内側視索前野 / 神経回路 / CTB |
研究実績の概要 |
これまで雄マウスの養育行動に重要な脳領域である内側視索前野 (MPOA) に出力する扁桃体海馬野(AHi)ニューロンには、養育/攻撃の相反する行動にて活性化される複数のニューロン集団が存在することを見出してきた。 2020年度は、活動依存的プロモーターの下流に、薬剤依存的リコンビナーゼを配置した逆行性ウイルスベクターの条件検討を行った。リコンビナーゼ特異的に蛍光タンパク質が発現するマウスの脳内に、ウイルスベクターを投与し、リコンビナーゼの動作に必要な薬物の濃度および投与時間の条件を設定した。次に、攻撃時・養育時に活性化したMPOA投射型AHiニューロンを標識し、神経活動マーカーc-Fosの免疫染色を組み合わせた実験を行った。その結果、当初の仮説の通り、それぞれの活動で活性化したニューロン集団は異なっていることが示された。以上より、出力特異性に加えて、活動依存性によっても神経細胞を識別する新規細胞標識法を確立することができた。 上記の研究のほかに、MPOA投射型AHiニューロンの軸索分岐に着目した研究も進めた。AHiはMPOA以外に視床下部腹内側核(VMH)や分界条床核(BNST)へも神経投射を送っていることが報告されている。そこで、MPOA、VMH、BNSTにそれぞれ逆行性トレーサーであるCTBを注入し、AHiニューロンを投射先に応じて標識した。その結果、標識されたAHiニューロンのうち、約50%が2つ以上の脳領域へ神経投射を送っていることが明らかになった。また、MPOA投射型に焦点を絞り、光感受性イオンチャネル・チャネルロドプシンと電気生理学的手法を用いた実験を行ったところ、MPOA投射型AHiニューロンはVMH、BNSTの両方に、主にグルタミン酸作動性シナプスを形成していることが分かった。以上より、AHiは複数の脳領域へ同時に情報伝達を行う脳領域であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リコンビナーゼの動作に必要な薬物の濃度および投与時間の条件を設定する際、当初、神経活動を引き起こす外部刺激には、皮質の神経細胞を過興奮させるけいれん薬であるカイニン酸を用いていた。しかし、カイニン酸による神経活動の過興奮は長時間持続するため、薬物の条件を十分に評価することができないことが分かった。そこで、マウスを新奇環境に暴露することで海馬の神経細胞を活性化させ、薬物の条件検討を行った。神経活動によって発現した蛍光タンパク質にて標識された細胞数を比較したところ、標識に適切な条件を見出すことができた。今後は、新規細胞標識法にて分類されたニューロン集団を、さらに1細胞レベルの遺伝子発現解析により詳細なプロファイリングを行うための準備を進める。 以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
養育時と攻撃時に活性化したニューロン集団の特性を分子レベルでプロファイリングするために、標識された各ニューロン集団においてscRNA-seqによる解析を行う。新規細胞標識法を利用して養育時/攻撃時に活性化していた各ニューロン集団を標識したマウスより、AHiを含む脳スライスを作製し、ガラス電極を用いて標識単一細胞を回収する。得られた単一細胞より、Smart-seq2法にてcDNAライブラリーを調整し、シーケンスを行う。得られた遺伝子発現プロファイルを比較することで、各ニューロン集団特異的な分子マーカーの探索を目指す。
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