研究実績の概要 |
当該研究では, 80年代に超対称性の破れを調べる方法として導入されたWitten指数の文脈で, 数学的に厳密な離散時間量子ウォークの指数理論の構築を目指す. 初年度はスペクトルギャップを持つ具体的な1次元2相系量子ウォークモデルを考察し, 数値・手計算で予備的な考察をする事を目的とした.
■研究課題I. ユニタリ量子ウォークの指数. 2020年にQuantum Inf. Process.に掲載されたY. Matsuzawa氏 (信州大学)の論文では, Toeplitz作用素の指数定理を経由する形で, スペクトルギャップを持つsplit-step量子ウォークのWitten指数の計算を, 単位円周上で定義される連続複素値関数の回転数の計算に帰着できる事が示された. この具体例から着想を得て, Matsuzawa氏の結果がStrictly Localと呼ばれるより広いクラスの作用素のFredholm指数に対しても成立する事を証明することができた. この一般化では, 行列値Toeplitz作用素を考察し, その副産物として, Strictly Localな作用素の本質的スペクトルの計算方法も確立した. この結果は, arXivの単著論文として10月に発表され, 2月にJ. Math. Anal. Appl.に掲載される事が確定した. ■研究課題II. 非ユニタリ量子ウォークの指数. 研究課題Iの結果は, 非正規作用素にも適応可能であるという事実に着目し, 発展作用素が非ユニタリ作用素になるKim-Mochizuki-Obuseモデルの指数の分類に取り組んだ. これは, 最終的に, K. Asahara氏(滋賀大学), D. Funakawa氏(北海学園大学), M. Seki氏(北海道大学)との共同研究に発展し, 12月に研究成果をarXivの共著論文として発表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
未曾有のコロナウィルス感染症に見舞われたにも関わらず, 研究はおおむね順調に進展した. 初期の段階で所属研究機関の入構規制が予測できた為, 半月ほどの期間で自宅のリモートワーク環境を整えた. 特に, チームコミュニケーションツールであるSlackと呼ばれるサービスを用いて, 所属研究グループのバーチャルなワークスペースの立ち上げに貢献する事ができた. これにより, コロナ禍においても他大学の研究グループとのコラボレーションが可能になり, 幾つかの共同研究が誕生した. その成果物として, 今年度は2本の論文を査読付き国際雑誌に投稿し, 内1本の掲載が確定した.
|
今後の研究の推進方策 |
先述の研究課題I,IIの結果は, いずれも, 発展作用素のスペクトルギャップを仮定している為, 量子ウォークのWitten指数をある作用素のFredholm指数として特徴付ける事ができる. 一方でスペクトルギャップを仮定しない場合においては, この解釈が成立しない. 連続時間Dirac作用素とのアナロジーを用いれば, ギャップレスな量子ウォークのWitten指数は, トレース公式を用いて半整数値指数として特徴付ける事が期待される. 翌年度以降はこの一般化に着手する. この方向性の研究には, スペクトルシフト関数などをはじめとする散乱理論のツールが必須であり, 採用者は既に, Y. Matsuzawa氏 (信州大学)とK. Wada氏(八戸高専)らとの共同研究を開始している.
|