研究実績の概要 |
「量子ウォークのWitten指数」 カイラル対称性を持つ(離散時間)量子ウォークは, それに付随する超対称的ハミルトニアンが自然に現われるため, Witten指数として知られる指数を自然な形で定義する事ができる. (i)過去に得られた1次元split-step量子ウォークモデルのWitten指数の分類結果を, 散乱理論のツールを経由する形で,スペクトル・ギャップが存在しないケースまで拡張する事に成功した. この半整数値指数の分類結果をarXivに共著論文として投稿した (Matsuzawa-Suzuki-Teranishi-T-Wada). (ii) Mochizuki-Kim-Obuse模型のWitten指数の分類結果がQuantum Inf. Process.に共著論文として掲載された(Asahara-Funakawa-Seki-T). これは最近理論物理で注目を集めている確率が保存されないタイプの量子ウォークである.
「量子ウォークのバルクエッジ対応」 スペクトル・ギャップが存在するケースにおいて, 先述のWitten指数を別の2つの指数の和に分解できる事が判明した. これらの新しい指数を用いれば, 対称性に保護された束縛状態の個数を, 下から評価する事ができる. これはトポロジカル絶縁体の理論におけるバルク・エッジ対応の一種である. これらの結果を2本の共著論文としてarXivに投稿した(Matsuzawa-Seki-T, Matsuzawa-T-Wada).
「ユニタリ作用素のスペクトル流」 1 + トレース型のユニタリ作用素に対するスペクトル流を位相的な手法で特徴付けた論文がJ. Funct. Anal. に掲載された(Azamov-Daniels-Tanaka).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き, 今年度もコロナウィルス感染症の影響により, 共同研究者との打ち合わせはZoomやSlackなどのサービスを用いたリモート形式で行った. それに伴い研究出張費として計上する予定であった特別研究員奨励費は, ほぼ全て自宅のリモートワークの環境を整える目的で使用した. 本研究は理論研究である為, リモート形式の研究において, 特に目立った支障は無かった. 実際, 当該研究はおおむね順調に進展している.
今年度は, 既に査読付きのジャーナルに投稿済みであった2本の論文がアクセプトされ, 3本の新しいプレプリント論文をarxivで発表する事ができた. 特に半整数値Witten指数に関する分類結果は, 当該研究の研究目的における要所の1つであった. これを2年目で達成できたため, 次年度はより発展的なテーマに取り組むことができる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の未解決問題を考察し, 結果を論文の形にして発表することを目指す: (1) 先述の半整数値Witten指数の分類結果は, 数学理論として構築されているが, その物理的な意味は明らかになっていない. 具体的には, 指数の半整数値性とレゾナンスの存在の関連性を発見が出来れば, 当該研究の物理的な意味を見出す兆しとなるだろう. (2) 先述の量子ウォークのバルク・エッジ対応に関する結果では, スペクトル・ギャップの存在を一貫して仮定している. しかし, Witten指数の分解可能性について, スペクトル・ ギャップが存在しないケースにおいても未解決であるため, この解決も目指す.
また, 先述のユニタリ作用素のスペクトル流に関する研究内容は, 研究実施計画に記載した内容ではない. しかし, この類のユニタリ作用素の不変量に関する結果は, ユニタリ作用素のスペクトル解析により解析可能な量子ウォークにおいて重要な役割を果たすことが見込まれる.
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