研究課題/領域番号 |
20J22698
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
東海林 拓人 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 民主化 / 非承認国家 / 権威主義化 / 政治体制 |
研究実績の概要 |
海外渡航による現地調査や文献渉猟が困難な状況が続いたため、令和2年度は国内で、主に2次文献や既存のデータセットを活用した研究手法に切り替え、研究を進めた。修士論文をもとに、理論・実証とも精緻化した論文の執筆作業を進めた。同論文では、非承認国家「ソマリランド共和国」を事例とし、これまで民主化研究であまり扱われてこなかった非承認国家が競争的選挙を導入・継続する要因についての考察を行っている。また、新たにFreedom Houseによる政治的権利指標に関するデータを用い、計量分析を行った。その結果、非承認国家が統治を主張している領域を国際法上統治しているとされる法的親国の軍事的脅威が増大するほど、非承認国家の政治的権利は拡大することを明らかにした。この成果は、政治学若手研究者フォーラムにおいて報告した。その後さらに修正を行い、令和3年6月に日本比較政治学会研究大会において報告と、その後の学術誌への投稿を予定している。 上記の研究成果は、従来の民主化論では指摘されてこなかった、対外的脅威が民主化を促進する可能性を主張するものであり、非承認国家に留まらない示唆を有する。このことを踏まえて、博士論文の構想具体化に取り組んだ。現段階では、競争的選挙の実施と停止に対する対外的脅威の影響に焦点を当て、広範な事例の比較を、計量分析と事例分析を組み合わせて行うことを予定している。特に、競争的選挙がいったん導入された国家において、選挙で選出された指導者の手によって政治体制が権威主義化する現象に注目し、その要因の理論化を試みている。この構想をさらに深め、令和3年度は所属専攻の博士論文審査の一段回である「プロポーザル・コロキアム」を実施するとともに、研究成果の学内外の研究会での報告や、学術雑誌への投稿を試みる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は新型コロナウイルスの感染拡大により、海外渡航による現地調査や文献収集が困難な状況が続いたため、研究方法の再検討を余儀なくされた。こうした状況への対処として、二次文献や既存のデータセットを活用するなど、研究手法を一部変更するなどの工夫の下での研究遂行が求められたが、そうした研究手法の変更を経て、修士論文をもとにした理論・実証とも精緻化作業を中心に、非承認国家の政治体制に関わる研究を進めることが一定程度できた。これらの研究成果は、令和2年度の政治学若手研究者フォーラムで報告を行うとともに、その後さらに修正を行い、令和3年度の日本比較政治学会の研究大会において報告に採用されるなど、一定の評価を得ている。これらの報告機会を経て、令和3年度中に学術誌に投稿する見込みである。 この研究成果は修士論文の単なる加筆修正による1本の論文執筆に留まらず、政治体制研究に広い示唆を与えうるものであり、令和3年度以降に博士論文の執筆が大きく進展する土台となると考えられる。以上のことから、本研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。 一方で、未成熟な計量分析手法へと切り替えたことによって作業には一定程度の時間を要した。このため、当初の期待を大きく上回るほどの進展にまでは至っていない。今後は、研究手法を精緻化し、優れた成果を継続的に発表できるように努めていく必要があるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで論文を執筆してきた非承認国家はデータの制約が著しいことから、同論文が示唆した対外関係と政治体制との連関を、より広く主権国家一般への応用を試みる。具体的には、第二次世界大戦以後に各国で発生した権威主義化についてデータを収集し、それらのうち、民主的に選出された指導者または政権の手によって 権威主義化した事例に着目する。まずは、指導者の手によって行われた権威主義化を、二次資料等を用いて以下2つの下位類型に分類する。す なわち、既存の憲法秩序の内部で合法的に民主的規範・制度を徐々に改変していく「侵食」と、突如として既存の憲法秩序を非合法に停止して 急速に権威主義化する「自主クーデタ」である。 その上で、まずは最も理論的研究の少ない、「自主クーデタ」の要因について検討を行う。自主クーデタ発生時およびその前後の経済・社会要 因に比べ、対外関係、すなわち同盟関係や貿易量、援助などのデータを収集して計量分析を行い、新たな仮説を導出する。その上で、事例分析 を試みる。 事例分析では、競争的選挙の停止と実施が繰り返されたザンビアの政治過程に着目する。一次資料を取得するため、新型コロナウイルスの感染 状況を注視しつつ、南部アフリカに関する資料が豊富であるイギリス・ロンドンの大英図書館などへの訪問を予定している。 研究成果は日本国際政治学会や日本比較政治学会等の学会での報告を行い、それらを通じて受けたコメントを踏まえて修正を加え、Democratiz ationなどの学術誌への投稿を目指す。また、その成果を下に博士論文の構想を学内の博士論文審査プロセスの一環である「プロポーザル・コ ロキアム」を実施して発表する。
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