政治体制変動、とりわけ権威主義化の発生・進行要因の理論的研究について、さらなる理論の精緻化および、データセットの作成を中心に研究を進めた。 具体的には、政治指導者が過去に権威主義体制下で反体制運動を行い、体制側から抑圧を受けていた経歴を有する場合、当該指導者は過去の被抑圧経験によって他党に対する政治不信を抱えるため、政権喪失を恐れて権威主義化しやすい、との仮説を導出した。同仮説を、各国の指導者の経歴が当該国における民主主義の存続または権威主義化に与える影響に関するデータを収集し、計量分析と事例分析を組み合わせた分析を行った。研究手法として、近年政治学において発展著しい「伝記的アプローチ(personal biography approach)」を採用し、新興民主主義国の指導者の経歴に関するデータセットを新たに作成した。類似のデータセットは既にいくつか存在しているが、指導者が民主化以前の旧体制下で体制に対して抗議や抵抗を行っていたか否かを変数として含むものは存在しないため、新たな変数を独自に加えて分析を行った。 その結果、指導者が過去に体制に対して政治制度外での抵抗を行った経歴を有し、特に体制側から強度の抑圧を受けていた場合、当該指導者の政権下では権威主義化が進行しやすいことを明らかにした。 また、並行して、政治体制研究の対象を拡張することを目的とし、前年度まで行ってきた非承認国家の政治体制に関する事例研究を進めた。 上記研究内容について、学内博士論文審査過程に報告を行った。また成果の一部は、研究実績報告日現在、国際誌に投稿中である。
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