研究課題/領域番号 |
20J22730
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岩田 直幸 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 中性酸素ラジカル処理 / アミノ酸溶液 |
研究実績の概要 |
2020年度は、水耕栽培等に使用させる養液(肥料)の成分であるL-トリプトファン(L-Trp)を含有する溶液に大気圧プラズマ中の電気的中性酸素ラジカルを照射して、溶液に殺菌効果を付加する手法について研究を行った。 まず、我々の研究グループが開発した大気圧酸素ラジカル源を用いて大腸菌が懸濁されたL-Trp溶液を処理したところ、数分以内に6桁の大腸菌生菌数を検出限界以下まで減少させることを新たに発見した。以前報告した酸素ラジカル処理L-フェニルアラニン(L-Phe)溶液ではこれほど即効的な殺菌効果生成は達成できなかったため、酸素ラジカル処理アミノ酸の新たな有用性を発見したと考える。 次に、本殺菌溶液中の殺菌物質を調査するために、酸素ラジカル処理によってL-Trp溶液中に生成される物質を核磁気共鳴法と質量分析法にて分析した。その結果、まず、酸素ラジカル処理中に不安定L-Trp誘導酸化物が生成され、処理が終了すると、直ちに別のL-Trp誘導酸化物に分解し、最終的にはL-Trpの分解物に至ることが示唆された。今回の酸素ラジカル処理L-Trp溶液の殺菌効果が非常に強力であることから、化学的活性の高い不安定L-Trp誘導酸化物が殺菌に寄与していると考察している。 今年度の研究によって、以前報告した酸素ラジカル処理L-Phe溶液より遥かに強力な殺菌溶液の開発に成功した。更に、酸素ラジカル処理後のL-Trp溶液には、不安定L-Trp誘導酸化物が生成され、この物質が大腸菌にダメージを与えていることを考察し、酸素プラズマ活性アミノ酸溶液が有する殺菌効果の作用機序解明の一助となり得る非常に重要な知見が得られたと判断する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の特別研究員への申請時では、2020年度の研究計画を「酸素ラジカル処理アミノ酸溶液の殺菌因子に関する分析」とした。 まず、2020年度の研究にて、L-トリプトファン(L-Trp)を含有する溶液に大気圧プラズマ中の電気的中性酸素ラジカルを照射することで、以前報告したL-フェニルアラニン(L-Phe)より更に強力な殺菌効果が生成できることを発見したため、同L-Trp溶液中の殺菌因子について分析を行った。 酸素ラジカル処理によってL-Trp溶液中に生成される物質を核磁気共鳴法と質量分析法にて分析した。その結果、酸素ラジカル処理後のL-Trp溶液中から、L-Trpの酸化分解物を検出した。この酸化分解物が酸素ラジカルとの相互作用によってL-Trpより生成されるであろう経路を考察したところ、酸素ラジカル処理中に不安定L-Trp誘導酸化物が生成され、処理が終了すると、直ちに別のL-Trp誘導酸化物に分解し、最終的にはL-Trpの酸化分解物に至ることが示唆された。加えて、今回の酸素ラジカル処理L-Trp溶液の殺菌効果が非常に強力であることから、化学的活性の高い不安定L-Trp誘導酸化物が殺菌に寄与していると考察している。 これらのように、2020年度では酸素ラジカル処理アミノ酸溶液中の殺菌因子を特定するべく、酸素ラジカル処理L-Trp溶液の化学的分析を中心に研究活動を行い、その成果として、化学的活性の高い不安定L-Trp誘導酸化物が酸素ラジカル処理L-Trp溶液の殺菌因子であることが示唆された。 従って、特別研究員申請時に計画した通り、2020年度では酸素ラジカル処理アミノ酸溶液の殺菌因子について化学的分析手法を用いて調査を行い、上記不安定L-Trp誘導酸化物が殺菌因子である可能性が高いことを突き止めたことからも、おおむね順調に研究を進展できていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては、以下の2点(①と②)において重点的に研究を推進する予定である。 ①酸素ラジカル処理アミノ酸溶液が癌細胞選択的殺傷効果を有するかの調査 これまでに、大気圧プラズマを用いて処理した細胞培養液が癌細胞を選択的に不活性化させ、正常細胞は攻撃しないことが報告されている。しかしながら、細胞培養液にはL-トリプトファン(L-Trp)を含む30種以上の物質が含まれるため、その内のどれが癌細胞選択的不活性化の重要因子か未だ特定されていない。そこで、もし、我々の酸素ラジカル処理L-Trp溶液から癌細胞選択的不活性化効果を確認できた場合、プラズマ活性培養液の癌選択不活性化メカニズム解明への一助となり、従来の強い副作用を持つ抗癌剤に代わる新しい癌治療法となることが期待できるため、酸素ラジカル処理L-Trpが癌細胞を選択的に不活性化できるのか調査する。 加えて、酸素ラジカル処理アミノ酸溶液の大きなメリットの1つは、殺菌効果と同時に植物成長を促進する効果を有することである。 ②酸素ラジカル処理アミノ酸溶液を用いた植物成長促進メカニズムの調査 2020年度の研究によって、酸素ラジカル処理アミノ酸溶液の殺菌因子等は徐々に解明されつつあるが、一方で植物成長促進メカニズムには未解明な部分が多い。遺伝子組み換え作物のように、酸素ラジカル処理アミノ酸溶液が遺伝子変異に作用しているのか、周囲環境の変化を受け遺伝子の発現レベルを変えているだけかなどについて評価することで、植物の成長促進が安全性・可食性をもって得られているのかについて評価する必要がある。そこで、酸素ラジカル処理アミノ酸溶液がモデル植物であるシロイヌナズナを成長促進する際の遺伝子発現の解析に取り組み、促進に関与して発現・抑制する遺伝子を特定することで、酸素ラジカル処理アミノ酸溶液による植物成長促進メカニズム解明を進展させる予定である。
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