2020年度に行った研究では、ボランティアのジレンマ(集団内で少なくとも1人がコストを負担した場合に限って集団全体が利益を得られる状況)において人々が何を理想としているのか(どのようにコストの負担を集団成員間で割り振るのが望ましいと考えているのか)、また、実際にボランティアのジレンマの状況に置かれたときにその理想を実現できるのかを検討した。その結果、人々が理想としている結果と実際に実現できる結果に差が生じる可能性が示された。2021年度は、このように理想と現実が乖離するメカニズムを明らかにするため、ボランティアのジレンマにおける人々の認知や行動を検討した研究を2件実施した。 1件目の研究では、人々がボランティアのジレンマにおいて何を理想としているのかについて、2020年度に行った実験よりもさらに精緻に検討できる実験を行った。その結果、2020年度に行った実験の結果は再現された。具体的には、各集団成員の手元に残る利益が最終的に均一になることを人々は理想としていることが示された。 2件目の研究では、人々がなぜその理想から乖離してしまうのかを検討するために2つの実験を行った。1つ目の実験では、理想と現実の乖離の要因が各集団成員の認知資源不足である可能性を検討した。2つ目の実験では、理想と現実の乖離の要因が集団成員間の期待の不正確さである可能性を検討した。理想と現実の乖離の要因に関しては、2022年度以降も引き続き検討を進めていく予定である。 上記の研究成果は、日本社会心理学会の第62回大会、日本グループ・ダイナミックス学会の第67回大会(優秀学会発表賞受賞)、Society for Personality and Social Psychologyの2022年大会(Graduate Travel Award受賞)などで発表された。
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