スピントランジスタは磁気メモリの情報不揮発性と金属ー酸化物ー半導体電界効果トランジスタの高速動作を組み合わせることにより低消費電力・組み換え可能回路への応用が期待される新規デバイスであり、室温動作が報告されている。実用化に向けてスピンに依存した信号が小さいというボトルネックの解消のため鋭意研究が続けられている。従来のプレーナー型トランジスタと異なるが、磁気メモリと類似の縦型構造を用いることにより、スピン依存の信号を大きくできることが知られている。一方で、縦型構造ではゲート電圧による制御性が低下するという背反がある。本年度はまず、縦型も含めた包括的なベンチマーキングを行い、この背反を定量的に示した。その上で、スピントランジスタ高性能化に向けた界面物性の研究に引き続き取り組み、アウトプットとしての学会発表、論文発表等を行った。さらに、背反する二つの性能を包括的に評価するため、性能指標を初めて定義して提案した。 スピントランジスタの性能指標に基づき、要素技術の開発目標と照らし合わせて検討した。界面抵抗の低減が重要であることを見出し、これを実現するための技術開発に注力した。半導体の不純物密度を抑制しつつ界面抵抗を低減するという半導体工学の固定観念を脱する材料開発が重要であることを解明し、この技術課題解決のため実験的研究に取り組んだ。予想外のトラブルが多発する中、機動的な材料探索により求められる性能を満たす材料の開発に成功した。以上より、シリコンスピントランジスタの実用化に向けて、求められる性能指標を満足するための要素技術を確立した。
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