研究課題/領域番号 |
20J22778
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小田部 荘達 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | 重力波検出器 |
研究実績の概要 |
昨年度はコヒーレントコントロール法と呼ばれる手法を導入した。これは搬送波から周波数をずらした副搬送波を共振器に入射し、2つのレーザー間で光パラメトリック増幅過程が異なることを利用して2次高調波との相対位相に対する誤差信号を取得する手法である。昨年度は最適な副搬送波の周波数を理論的に求め、復調位相によって誤差信号が変化することを確認した。今年度は理論の導出過程を見直し、光パラメトリック増幅が最大となる動作点における最適な復調位相を決定した。これによって、光ばねの共振周波数が最大となるように全自由度を制御できるようになった。 また、コヒーレントコントロール法による誤差信号は光パラメトリック増幅によって増幅されてしまう。すなわち、光共振器の位相制御が僅かに揺らいでしまうだけで2次高調波との相対位相が大きく変化してしまうので、特定の動作点に対して安定に制御することが困難であった。そこで、コヒーレントコントロール法の制御パスにもコイルマグネットアクチュエータを導入し、広帯域に渡る制御を行うことで、相対位相に対しても高ゲインのフィードバック制御を行えるように制御系を改良した。これによって、高ゲインの光パラメトリック増幅を行っている場合であっても安定した伝達関数が測定できるようになった。 光パラメトリック増幅を用いた方式の他に、カスケード非線形光学効果を用いた手法を新たに提唱し、実験を実施した。これは2次の非線形光学効果を連鎖させることで光カー効果と同等の現象を起こせる手法であり、本来パルス光を利用しなければ実現できないような高ゲインのスクイージングを実現することができる。既に十分なゲインを持った信号増幅効果を確認しているが、共振器内のレーザー光強度が強すぎるために光熱効果が伝達関数測定を妨げてしまっていることが明らかになっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光パラメトリック増幅実験では十分な増幅ゲインと安定な制御の両立に成功したが、内部スクイージングによって強化された光ばねを観測することはできなかった。これは2次高調波と比較して共振器内主搬送波の強度が強すぎるために、第2次高調波発生の効果が無視できなくなっているためだと考えられる。現在は共振器内での非線形光学効果の効率が高く、利用できる2次高調波強度の1/4程度を入射するだけで光パラメトリック発振状態に到達している。よって、共振器を構成している鏡の曲率を大きくし、非線形光学効果の効率を引き下げることで、より強い2次高調波を入射することが可能となる。また、入射鏡の反射率を低くし、共振器内での光往復回数を引き下げることでも、この問題を解決することができる。 カスケード非線形光学効果実験では、まず光カー効果を用いた内部スクイージングの理論的な正当性を確認した。この手法を用いると光パラメトリック増幅における2次高調波との相対位相に相当する自由度が光強度によって一意的に決定されてしまうが、原理検証実験としては十分であると考えている。また、非線形光学結晶の温度を変化させ、カスケード非線形光学効果が最大となる位相不整合状態を決定し、強い光強度を入射することで屈折率が変化していることを確認した。この共振器内での位相進みが信号増幅効果、ひいては内部スクイージング効果に直接的に対応している。しかし、この状態で伝達関数の測定を行うと振動子に加わる粘性摩擦力が極めて大きくなることが確認された。 カスケード非線形光学効果実験においては非常に強い光強度を入射するため、非線形光学結晶で光熱効果が引き起こされることが分かっている。この効果は放熱に比べ吸熱の速度が十分早いと伝達関数測定にまで影響を及ぼす。特に、光ばねが発生している場合に光熱効果が起きると極めて大きい光摩擦が発生することを理論的に示すことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
光パラメトリック実験に関しては非線形光学効果を引き下げることで二次高調波発生の効果を低減させることを検討している。このためには入射鏡の反射率を落とし共振器内での実効的な光の往復回数を減少させるか、ビームを絞るための鏡の曲率を大きくするかする必要があるので、その双方に必要となる鏡を発注し光学系を改良する準備をしている。 カスケード非線形光学効果実験に関しては光熱効果が伝達関数を変化させていることが分かったため、この特性を詳細に評価する予定である。もし光熱効果に関するパラメータを十分な精度で特定することができれば、光熱効果の影響のみを差し引いた場合の伝達関数を求めることもできる。光熱効果を無視することさえできれば、非線形光学効果が光ばねに与える影響を見積もることが可能である。 光熱効果はレーザー光が結晶に吸収され熱膨張し実効的な共振器長を変化させる吸熱過程と結晶から熱拡散・熱伝導・対流伝熱などが起きる放熱過程に分けて考えることができる。放熱過程は結晶と周囲環境の物性値のみで決まってしまうが、吸熱過程は入射光強度や離調角によって変化させることができる。特に、光熱効果によってもたらされる光摩擦を利用すると単体で安定な光ばねを発生させることができる。これは通常の共振器はもちろん非線形光学効果を用いても不可能だったことなので、光熱効果自体も非常に興味深く様々な実験系に応用することができる現象だと言える。また、この光熱効果によって変化させた光ばねの特性は入射光強度や離調角によって変化させることができる。まずは、光ばね定数と光散逸定数の入射光強度・離調角依存性を調べ、理論との整合性を確認する。次に、光熱効果を差し引いた場合の光ばね定数を求め、非線形光学効果が光ばねに及ぼす影響も評価する予定である。
|