研究課題
本年度は、単純アルカンのC-Hアミノ化反応に適用するため、新規架橋型配位子を有するキラル外輪型二核ルテニウム触媒の合成を行った。まず、新規架橋配位子の合成に関して、申請書に記した合成ルートを見直し、配位子合成の終盤において多様な誘導体化が可能な合成ルートを計画した。種々検討の結果、6工程で目的の配位子を合成できた。本合成ルートでは、全工程で高収率のグラムスケール合成が可能であり、効率よく目的の配位子を得ることができた。得られた配位子を使って二核ルテニウムテトラアセテート錯体との配位子交換を検討したが、目的の錯体を得ることはできなかった。配位子交換がうまくいかなかった原因として、配位子の柔軟性の問題があげられる。よって、より柔軟性が高い配位子とするため、原料をL-セリンから一炭素増炭したL-ホモセリンを基質として、再度配位子の合成を行う予定である。二核ルテニウム触媒から発生する活性種は高い求電子性を持つという仮説について検証するため、C-Hアミノ化反応の活性種であるナイトレノイド以外の活性種として、カルベノイド種にも着目して検討を行った。カルベン前駆体として、電子求引基が置換しておらず求電子性が比較的低い、ジアリールジアゾメタンを基質として種々の反応に適用した。その結果、不斉シクロプロパン化、シクロプロペン化、シクロプロパノール化において、良好な収率、中程度の立体選択性で目的物を得ることができた。申請書に記した内容ではないが、これらの反応で得た情報はナイトレノイドを活性種とする不斉C-Hアミノ化反応を検討する際の重要な知見となる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は申請書に記載した新規架橋配位子及びそれを組み込んだ錯体の合成を行った。新規錯体の合成に関しては、効率の良い配位子の合成ルートを確立することができたが、それを組み込んだ錯体を合成することができなかった。一方で、二核ルテニウム触媒から生じる活性種についての知見を集めるため、ジアリールカルベンを活性種とした反応の開発に取り組み、適用したいずれの反応においても、初期検討としては良好な結果を得ることができた。カルベンを活性種とする反応は申請書に記した内容ではないものの、ナイトレンを活性種とするC-Hアミノ化反応を検討する際の重要な知見となる。以上の進捗状況より、おおむね順調に進展していると判断した。
今後は、1)単純アルカンのC-Hアミノ化反応を検討するための新規錯体の合成、および2)ジアリールカルベンを活性種とした新規不斉反応開発の2つを主に進めていく。新規錯体の合成においては、柔軟性に優れるL-ホモセリンを原料とした配位子を合成し、再度配位子交換を検討する。錯体の合成が完了し次第、酸化還元電位の測定やX線結晶構造解析を行う。ジアリールカルベンを活性種とした反応で得られてくる目的物は、医薬品や機能性材料分野で重要な光学活性なジアリールメチル基を有する点で合成的価値が非常に高い。よって、ジアリールカルベンを活性種とした反応の開発も引き続き行っていく予定である。具体的には、不斉シクロプロペン化反応と不斉シクロプロパノール化反応において立体選択性の向上を目指して、触媒を含めた詳細な条件検討を行っていく。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Nature Catalysis
巻: 3 ページ: 851-858
10.1038/s41929-020-00513-w