研究実績の概要 |
神経幹細胞(神経系前駆細胞)は胎生期では神経管全体に存在して脳・脊髄を形成するが、そのほとんどは生後に消滅する。一方、成体においても少数の神経幹細胞のみが脳の限定された部位に残存し、新しく作られたニューロンは成体の学習や記憶・本能行動の制御に貢献する。では、どのようにして胎生期神経系前駆細胞のごく一部の特別な細胞のみが、成体まで残存する神経幹細胞として選ばれるのだろうか。 胎生期神経系前駆細胞は短期間に脳を作るために「素早く分裂」する。しかし当研究室において、その一部が胎生期の間に分裂頻度を下げ(「ゆっくり分裂」)、さらにその一部が成体神経幹細胞となることが示された(Furutachi et al., 2015)。しかし、このゆっくり分裂する神経系前駆細胞の中には将来成体神経幹細胞になる細胞だけでなく、成体神経幹細胞のニッチを構成する上衣細胞になる細胞も含まれる(Spassky et al., 2005)。さらに最近の研究により成体神経幹細胞と上衣細胞の一部は共通の前駆細胞から分化してくることがわかっている。しかし、ゆっくり分裂する細胞の中から成体神経幹細胞の起源細胞と上衣細胞の起源細胞が選ばれるメカニズムについては全く明らかになっていない。 そこで本研究では成体神経幹細胞と上衣細胞の運命決定メカニズムの解明を目的とした。私は本研究において、上衣細胞を神経系前駆細胞から誘導する培養系を確立し、BMPを添加すると上衣細胞の分化が阻害され、BMPシグナルは上衣細胞遺伝子の最上流因子として知られるGemC1の発現も抑制していることを見出した。さらにBMPシグナルが成体神経幹細胞の確立に寄与することを見出した。本研究によって上衣細胞と成体神経幹細胞の形成機構の一端を明らかにできたと考える。
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