研究課題/領域番号 |
20J22842
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 由宇 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 膜電位記録 / 扁桃体基底外側核 / 背側海馬 / 新皮質 / slow oscillation |
研究実績の概要 |
背側海馬は空間の情報処理を、扁桃体基底外側核 (BLA) は情動の情報処理を担うことが知られている。そのため、両者の神経細胞が記憶獲得時及び固定化時に同期発火することで、空間と情動が関連づけられた記憶(文脈情動記憶)が形成されると考えられる。しかし、どのような神経回路機構によって背側海馬とBLAとの同調活動が生じるのかは、その重要性にも拘わらず未解明である。この原因は、神経細胞への入力を記録できるパッチクランプ法をBLAのような生体内脳深部領域に適用することが技術的に困難であったためである。そこで申請者は、自身がこれまでに開発した生体脳深部領域へのパッチクランプ法をマウスのBLA に適用し、単一細胞の膜電位記録を行うことで、領域間の同調活動が生じる神経回路機構を解明すべく研究を行っている。 背側海馬では、記憶を固定化する際にsharp wave-ripples (SWRs) という脳波が見られる。この脳波は新皮質で同じく記憶の固定化時に見られるslow oscillationと同期することが知られている。現在までに、マウスを用いて、BLA神経細胞の膜電位と同時に新皮質slow oscillationを記録することで、情動記憶固定時における領域間の同調活動機構の解明を試みた。BLA神経細胞の膜電位からは興奮性の入力を反映した脱分極がしばしば観察された。これらは、新皮質slow oscillationのうち、新皮質の神経細胞が一斉に活動しやすい状態となるUP状態中により多く生じていたことが明らかになった。さらに、BLA神経細胞の脱分極のタイミングはUP状態の中でも後半により多いことが分かった。上記の同調活動時、領域間の情報伝達を介在している領域を推定することを今後行う予定であるほか、この同調活動が複数のBLA神経細胞で同時に見られるかを検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
記憶の固定化に寄与する海馬SWRsは、新皮質におけるslow oscillationと同期して発生することが知られている。今年度、マウスのBLA神経細胞の膜電位と同時に、新皮質slow oscillationを記録し、BLA神経細胞において、興奮性の入力を反映した脱分極が、新皮質slow oscillationのUP状態と対応することを明らかにした。この現象は領域間の同調活動を担うものであると考えられる。海馬SWRsは新皮質slow oscillationのUP状態と関連して生じることが知られているため、BLA神経細胞の脱分極の時間特異性は海馬SWRsの発生と関係している可能性を示唆し、この点でおおむね順調に進展していると判断した。 一方で、記録したBLA神経細胞の投射元を同定するには至っておらず、次年度以降の課題となっている。この点において計画以上の進展は認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は背側海馬SWRsに反応して膜電位変動するBLA神経細胞の投射元の神経細胞が多く存在する領域を明らかにし、領域間の同調活動を担う介在領域を推定する。膜電位記録に用いられるパッチクランプ法では、記録細胞の投射元を特定する手法を組み合わせることが可能であるため、これを用いてBLA神経細胞の投射元を標識する予定である。推定後は、人工受容体によって神経活動を操作するDREADDシステムを用いて、候補領域を慢性的に抑制した際のBLA神経細胞の膜電位変動を記録することで、介在領域の候補を絞る。 また、今年度に解明した新皮質slow oscillationに対応するBLA神経細胞の膜電位変動は、同時に複数の神経細胞から得ることができておらず、BLA神経細胞間で同期した脱分極が見られるのかは不明である。そこで、ウイルスを用いた神経細胞へのカルシウムインジケーターGCaMP7fの導入、並びに屈折率分布型レンズの埋め込みによるBLAの神経活動のイメージング系を用い、海馬SWRsや新皮質slow oscillationの記録と組み合わせることで、領域間で同調活動が生じる際のBLAにおける複数細胞の活動を一度に捉える予定である。
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