本年度前半では,これまで実験を行ってきた熟練ピアニストと音楽訓練未経験者における手指の独立運動機能の背景にある脳神経機能・身体機能の可塑性を評価した研究に関して,論文を執筆し,海外雑誌への出版を目指した.最初に提出した雑誌はrejectを受けたが,二つ目に提出をしたCerebral Cortex誌では,reviseの段階まで進むことができた.reviseでは,先行研究との相違点についての説明や,これまで意識できていなかった実験中の被験者の注意をコントロールが必要なことを指摘され,20人程度の追加実験と大幅な論文の修正を要請されたが,頂いたいコメントに基づいて丁寧に修正作業を進めた結果,論文が受理された.
本年度後半では,これまでの手指の独立運動機能に関与する神経機能の可塑性に基づいた,熟練ピアニストのトレーニング実験を実施のため,実験制御プログラムの作成と予備実験を行った.予備実験では,被験者であるピアニストに対して,どのような情報を,どのように提示することで上達が促されるかトライアンドエラーを繰り返した.その結果,熟練したピアニストは運動を正確に行える結果,生じるエラー情報が微小であるため,エラー情報に基づいた運動の修正が停滞することで,更なる上達が停滞している状態である,という仮説を立てた.この予備実験の結果から得られた仮説を元にして,実験プログラムを修正し,本実験の実施準備中である.
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