研究実績の概要 |
本研究は生体内において凝集したアミロイドβ (Aβ)を特異的に分解する擬似ユビキチン/プロテアソーム系 (擬似UPS)の開発を目的とする。このために、Aβに共有結合を形成するaptamerとアミド結合切断活性を有するaptamerの相補鎖を作製する。これによりaptamerがユビキチンのようにAβを標識し、相補鎖がaptamerを認識しプロテアソームのようにAβを特異的に分解すると考えた。
2021年度は、前年度取得したthrombinに対して特異的に共有結合を形成する共有結合性thrombin binding aptamer (TBA; Y. Tabuchi et al., Chem. Commun., 57, 2483 (2021), cover article)を擬似ユビキチン、蛋白質切断コアを修飾したその相補鎖を擬似プロテアソームとしてモデル擬似UPSを構築し、標的蛋白質を特異的に切断することが可能か概念実証を行った。具体的には、共有結合性TBAの相補鎖配列中の特定残基にアミド結合を切断するcyclen (Suh et al., Asian J. Org. Chem., 3, 18 (2014)) をリンカーを介して修飾し、cyclenに銅イオンを配位させることで擬似プロテアソームを作製した。次に、共有結合性TBAにより標識を行ったthrombinに対して、作製したcyclen修飾相補鎖を加え、生理的活性条件下におけるthrombinの分解を試みた。この時、ゲル電気泳動および蛋白質染色を行いthrombin-擬似UPS複合体バンドの強度減少率を確認することで、擬似UPSの分解活性評価を行った。しかし、目的バンドの強度が減少しなかったことから、今回作製した擬似UPSはthrombinに対する分解活性を持たないことが明らかとなった。これは、リンカーを介したことにより生じるcyclenの構造的揺らぎに対して、銅配位cyclenの切断活性が不十分であったことが要因として考えられる。従って現時点では、既存の銅配位cyclenを用いた擬似UPSの構築は断念し、代わりにcyclenの構造最適化および異なる蛋白質切断コアの探索に注力している。
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