研究課題/領域番号 |
20J22919
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大橋 智典 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 含水マグマ / 液体構造 / X線回折 / 中性子回折 / 第一原理計算 / 分子動力学計算 |
研究実績の概要 |
本研究は、地下数百kmで地球物理学的観測から存在が示唆されている、含水マグマの巨視的物性の理解に焦点を当てている。マグマの地球内部での重力的安定性を理解するためには、微視的構造の決定が必要である。特に、常圧から約6万気圧(深さ約180 km)の圧力では、マグマは化学組成と含水量によって多様な圧縮挙動を呈し、高圧下での物性も多様だと期待される。また、この圧力域ではマグマ中の水が占めるモル体積の収縮が著しく、水の構造形態も大きく変化していると期待される。しかし、肝心の水素位置を決定できる中性子回折実験で含水マグマの構造を調べた報告はない。そこで、約6万気圧までの高温高圧その場X線・中性子回折実験と第一原理計算を行い、 1. マグマの圧力誘起構造変化と化学組成に対する依存性、 2. 無水・含水マグマの構造の圧縮挙動の差異、 3. 1, 2の構造の違いが物性に及ぼす影響、 の解明を目指している。X線と中性子の両方を構造決定に用いたのは、これらが互いに異なる原子種の位置決定に秀でており、相補的な構造の情報が得られるからである。更に、実験と数値計算を併用することで、データの妥当性を担保しつつ、実験だけでは分からない詳細な情報が得られると考えられる。 2020年度上半期は、第一原理計算を集中的に推し進めた。実験の温度・圧力領域を十分カバーする領域における無水・含水マグマの状態方程式、構造を得た。下半期以降の放射光X線回折実験では、顕著な構造変化が見えていた圧力領域のデータ点を追加で1点得た。なお、X線回折の成果の一部は国内学会にて発表した。これまで難航していた中性子回折実験でも、含水マグマの構造を2点の圧力条件で得ることに成功した。水の存在を示す構造が観察されたため、サンプル中の水は保持されていたと考えられる。高温高圧下での含水マグマの中性子回折実験は前例がないため、現在慎重に解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、Na2O-SiO2-H2O系のマグマのその場回折実験・第一原理計算による構造決定と、密度・相関係・水の溶解度の決定を目指していた。本課題の要となる中性子回折実験で長時間マグマ中の水を保持し続けることが、最大の難関であったが、この問題は解決できた。第一原理計算による構造・物性の計算もまとまったデータが得られ、順調に進んでいる。密度、相関係、および水の溶解度の室内実験による決定は行えなかったものの、COVID-19の影響により夏まで登校出来なかったこと、中性子回折実験の成功を考慮すれば、総じて順調に進められていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に達成できなかった、含水マグマの密度・相関係・水の溶解度の測定のための室内実験から着手する。今後はNa2O-SiO2-H2O系の含水マグマの構造決定をより踏み込んで推進することとし、主に、 1. 中性子回折実験の更に高圧下におけるデータの取得、 2. Na2O/SiO2比がマグマの構造に及ぼす影響を解明すること(実験・計算)。 の達成を目標とする。
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