本研究は、地下数百kmでの存在が地球物理学的観測から示唆されている、含水マグマの構造決定の実験と数値計算による解明を目指している。しかし、高圧下の含水マグマ中の水素位置やその構造上の役割を実験研究例はなく、未解明の問題が多い。そこで、本研究では常圧から約6-10万気圧における含水Na珪酸塩メルト(マグマの模擬組成)の構造を放射光X線回折実験(XRD)と中性子回折(ND)実験から調べた。より詳細な構造の情報を得るため、第一原理分子動力学(FPMD)計算も行った。 結果、XRD・ND実験のデータから、H-O距離が圧縮により伸びると判明した。また、無水マグマのSi-Si距離が圧力増加に伴い収縮したのに対し、含水マグマでは殆ど一定であった。これは水によるSiO4四面体のなす網目構造の非重合化に起因する圧縮メカニズムの差異であると判明した。 またFPMD計算の結果から、(1)圧縮下では、低圧条件でNaの占めるドメイン構造が優先的に圧縮し、ある程度圧力が高くなるとその圧縮メカニズムが飽和し、より圧力に対する構造の応答が鈍くなった。このような圧縮機構の変化は、無水・含水マグマの両方において熱力学的な量の圧力依存性にも反映されていた。(2)圧縮による反応は、SiO4四面体の重合反応と-OH基と近くのSiO4四面体が近づく反応によって、NaをSiO4四面体付近から遠ざけるものであった。(3)SiO4四面体のなす網目構造は水によって非重合化すると知られているが、その構造変化は網目構造の局所的な配向秩序の喪失としてより一般的に理解できた。 本研究の成果は、マグマの圧力・含水量による構造変化のメカニズムを詳細に記述したばかりでなく、Mg珪酸塩など他の代表的な組成のマグマの構造物性との系統的な比較をも容易にした。この意味で、本研究はマグマの構造を統一的に理解する上での意義も大きいと期待される。
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