研究課題/領域番号 |
20J22920
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小阪 高広 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞間相互作用 / 細胞捕捉 / 1細胞解析 / 光応答性 / がん免疫 |
研究実績の概要 |
本年度はマウスNK細胞による標的細胞の殺傷過程の観察のさらなる解析、ヒトNK細胞による標的細胞の殺傷過程の観察を行った。また、光分解性リンカーの合成とそれを含む細胞捕捉剤の合成を行った。 マウスNK細胞でのさらなる解析については、本系を用いてアレイ状に配置した標的細胞(YAC-1細胞)に対し、NK細胞を捕捉せずに作用させ、それぞれのNK細胞について標的細胞との接触回数と殺傷回数を計数した。YAC-1細胞は細胞質染色色素であるCalcein-AMを用いて染色し、Calcein-AMの蛍光強度を細胞膜傷害の指標として用いた。結果として様々な挙動を示す細胞が観察され、これらの細胞の割合が明らかとなった。全接触のうち細胞傷害に至る接触の割合は、細胞集団レベルでのアッセイで得た細胞傷害性の値と矛盾しなかった。 NK細胞を捕捉しない場合、NK細胞の高い運動性により、接触した標的細胞が捕捉した位置から外れる現象が見られた。そこでヒトNK細胞を用いた解析では、標的細胞(K562細胞)に加え、ヒトNK細胞も捕捉して1細胞同士のペアを作製し、殺傷過程を観察した。この方法では標的細胞の細胞死における形態の変化を観察することができ、アポトーシス様の細胞死を示す細胞とネクローシス様の細胞死を示す細胞の2種類が観察された。接触から細胞傷害時の膜の損傷までの時間と、膜損傷時の蛍光強度の減少幅をプロットしたところ、アポトーシス様の細胞死では蛍光強度の減少幅が小さい一方、ネクローシス様の細胞死では蛍光強度の減少幅は大きく、膜損傷までの時間は短い傾向が見られた。この現象について、NK細胞、標的細胞間の相互作用にかかわる分子の発現量のばらつきに関して考察を行った。 なお、ヒトNK細胞を用いた実験は聖路加国際大学での倫理審査委員会の承認に基づいて行われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NK細胞とがん細胞株を用い、NK細胞の殺傷性の不均一性について1細胞レベルでの観察を行うことにより、本系を用いて細胞間相互作用を観察できることを実証できた。これらの結果は当該技術を用いてそれぞれの細胞を配置することによって実現されたものであり、表現型ベースでの1細胞間相互作用解析への第一歩として有意義である。 回収系の構築を優先して行ったことにより当初予定していたバイオマーカー探索は実施できなかったが、構築した系を用いてバイオマーカー探索を行うことでより詳細な解析ができると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
光分解性リンカーを含む細胞捕捉用分子を利用し、捕捉・観察した細胞を回収し得る系を開発する。この系を用い、顕微鏡観察で観察される特徴と分子生物学的な特徴を関連付けることで新たなバイオマーカーの探索を行う。回収することが困難である場合、捕捉したその場での解析手法を模索する。標的として、NK細胞をはじめとした免疫細胞とがん細胞の相互作用を想定している。
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