研究課題
クワコの幼虫はカイコの幼虫より高い行動活性を持つ。この形質の差異は、カイコが家畜化される過程で、行動活性が低く逃げ出さない個体を選抜したことに起因すると考えられる。しかし、どのような変化がゲノム上に生じることでカイコが行動活性を失ったかについてはわかっていない。本研究は、カイコとクワコの行動の差異を産む原因遺伝子を同定し、その遺伝子の機能を明らかにすることで、家畜化の歴史を遺伝子レベルで理解することを目的とする。本年度は、以下の成果を得た。<行動活性を司る遺伝子の同定について>Multiplexed Shotgun Genotyping (MSG) を用いて、カイコとクワコの雑種後代 (F2) のジェノタイピングを行った。得られたSingle Nucleotide Polymorphism (SNP) マーカー情報と、それぞれの個体の行動量を対応させ、Quantitative Trait Loci (QTL) 解析を行った。その結果、行動活性に関与する遺伝子が存在するゲノム領域を絞り込むことに成功した。これと並行して、カイコとクワコの脳と筋肉からそれぞれRNAを抽出し、シークエンスに供した (RNA-seq)。得られたリードをカイコのゲノムにマップし、各遺伝子の発現量を算定した。発現変動解析を行い、それぞれの組織において、カイコとクワコで発現量が有意に異なる遺伝子を探索した。また、クワコのゲノムにリードをマップして同様の解析を行い、結果を比較した。<クワコにおけるゲノム編集技術の確立について>クワコにおいて、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集技術の確立に成功した。
3: やや遅れている
前年度、covid-19の流行のため、研究計画に遅れが生じた。そのため、本年度は研究が大幅に進展したものの、当初の研究計画の進度には届いていない。
<行動活性を司る遺伝子の同定について>現在、QTL解析によって絞り込まれた領域内の遺伝子について、RNA-seqから得られた配列および発現情報と照らし合わせて、行動活性に関与する遺伝子の候補を選定している。今後は、選定した候補遺伝子のノックアウトを行い、機能検証を行う。また、in situ hybridizationや免疫組織染色を用いて、本遺伝子の発現組織や、本遺伝子がコードするタンパク質の局在を調査する。<クワコにおけるゲノム編集技術の確立について>これまでに得られた成果をまとめて、論文として発表する。
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Insect Biochemistry and Molecular Biology
巻: 137 ページ: 103624
10.1016/j.ibmb.2021.103624