研究課題/領域番号 |
20J22957
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
櫻井 裕真 琉球大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | アオリイカ / 左右性 / 視覚 / 社会的環境 / ゆらぎ |
研究実績の概要 |
本研究は「アオリイカの脳と視覚の左右性とそのゆらぎが、群れとしての視覚機能と関連する」という仮説を立て、それを行動学的・解剖学的に検証することを目的とした。目的達成のために、次の4項目の実施を企図した。1) アオリイカの特定の視認対象に対する利き眼の検証、2) 視葉と視認の左右性の発現とゆらぎに対する社会的環境の影響の検証、3) アオリイカの群れにおける利き眼の構成割合と個体の位置取りに伴う超個体視覚の創出の検証、4) アオリイカの脳・視認の左右性と個体の性格の関係の検証。令和2年度は、上記研究項目1) と2) を以下のように試みた。 研究項目1):アオリイカの特定の視認対象に対する利き眼を特定するために、集団飼育した個体を対象に餌生物、捕食者、同種個体に対して左右何れの眼を用いるのか評価した。その結果、個々の対象の視認に異なる利き眼があることがわかった。 研究項目2):アオリイカの視覚制御に関わる脳領域の視葉の左右差と、利き眼の発現の変動の様子(ゆらぎ)に対する社会的環境の影響を検証するために、アオリイカを集団あるいは隔離状態で2カ月以上飼育し、研究項目1)と同様の行動実験を行った。その結果、集団や隔離といった社会的環境に関わらず利き眼は発現した。一方、集団飼育個体は隔離飼育個体に比べて顕著に利き眼を示し、左右のバリエーションも見られた。すなわち、集団中の同種個体の存在が利き眼の発現に影響する可能性が示唆された。また、集団飼育個体は、警戒やストレスに関わる体色パターンを多く示し、これは利き眼の発現と連関する可能性が示唆された。また、アオリイカの視葉をmicro-CTを用いて観察して視葉容積を測定したところ、生育の社会的環境に関わらず左右に偏りは見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究項目1) と2) について、技術的に困難であるアオリイカの2カ月以上にわたる隔離飼育に成功した。また、これにより複数の行動実験と解剖学的観察を実施することができた。さらに、これらを総括して、アオリイカの視覚に関連する左右性の発現に同種個体の存在が影響する可能性という新知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、令和3年度に研究項目2) について追加の検証を、また、当初の計画通り研究項目3)を以下のように行う。 研究項目2):令和2年度と同様の実験を行い、再現性を確認する。 研究項目3):左眼、右眼、両眼使いなど異なる利き眼の個体で構成されるアオリイカの群れモデルをシミュレーションにて作出し、群れの隊形を観察する。また、群れモデルに対して、餌生物や捕食者のモデルを様々な方向から遭遇させ、その反応から群れとしての攻撃と防衛の適応性を利き眼との関係から評価する。さらに、実物のアオリイカの群れを対象として、群れモデルと同様の実験を行う。そして、群れモデルと実物の群れを比較することで、アオリイカの群れの超個体視覚の機能について検証する。 以上の研究から得られた成果を、日本水産学会や日本動物行動学会にて発表する。また、それらの成果を論文としてまとめ、国際誌に投稿する。
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