本研究は、アオリイカの脳と視覚の左右性とそのゆらぎが、群れとしての視覚機能と関連するという仮説のもと、この仮説を行動学的・解剖学的に検証することを目的とした。目的達成のために、次の4項目の実施を企図した。1) アオリイカの特定の視認対象に対する利き眼の検証、2) 視葉と視認の左右性の発現とゆらぎに対する社会的環境の影響の検証、3) アオリイカの群れにおける利き眼の構成割合と個体の位置取りに伴う超個体視覚の創出の検証、4) アオリイカの脳・視認の左右性と個体の性格の関係の検証。令和4年度は、研究項目3)と4) を以下のように試みた。 研究項目3):シミュレーションにより作成したアオリイカの群れモデルを用いて、群れ形成における利き眼の構成割合の影響を調べた。はじめに、シミュレーションソフトのNetLogoを用いて、アオリイカの群れモデルを作成した。各個体について、群れ形成行動 (接近、回避、整列) および利き眼を導入し、作成したモデルと実際の群れを比較した。その結果、実際の群れと同じ構成割合を持つモデルが、実際の群れに類似した挙動を示した。この結果から、利き眼の構成割合および利き眼の強さがアオリイカの群れ形成に関与することが考えられた。 研究項目4):アオリイカの利き眼の個体差が個体の性格に起因するかを検証した。はじめに、餌生物、捕食者、同種個体に対する各個体の利き眼を特定した。次に、利き眼を特定したアオリイカについて5つの性格(活発性、攻撃性、探索性、大胆性、社交性)を特定した。その結果、活発性、攻撃性、探索性、大胆性がアオリイカの性格として認められたが、社交性は性格として認められなかった。また、餌生物、捕食者、同種個体に対する利き眼が攻撃性、探索性、大胆性と関係がみられた。これらの結果から、アオリイカに性格が存在し、利き眼の個体差が性格によって生じている可能性が考えられた。
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