研究課題/領域番号 |
20J22984
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平野 航太郎 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 筋再生 / イオンチャネル / メカノバイオロジー / 幹細胞 / カルシウム / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
骨格筋に内在する幹細胞である筋衛星細胞は、骨格筋の再生に必須である。筋衛星細胞は周囲の変化を感知し活性化することで筋線維の修復・再生を行うことが想定されてきたが、その分子実態の全容は未だ明らかになっていない。特に、筋衛星細胞への物理的刺激の感知(細胞力覚)が重要な役割を果たすが、筋衛星細胞の細胞力覚機構の詳細は明らかになっていない。本研究員はこれまでに、筋衛星細胞にも発現する、細胞膜に膜張力が加わることによって活性化する機械受容イオンチャネルに着目し研究を行ってきた。 前年度の研究においては、筋衛星細胞特異的Piezo1欠損マウスと筋衛星細胞特異的Trpm7欠損マウスを用いて、骨格筋再生時における詳細な解析を行なった。これまでに、両マウスにおいて、骨格筋の再生能が低下することを見出した。当該年度の研究では、筋衛星細胞の活性化機構に着目するために、筋線維を単離・培養する実験を行い、その上に存在する筋衛星細胞の活性化を誘導した。Piezo1欠損マウスでは、筋衛星細胞の細胞周期への突入が促進することから、PIEZO1は骨格筋の活性化を抑制する機能を有することを見出した。一方で、同じ機械受容イオンチャネルであるTRPM7においては、筋衛星細胞の活性化を促進する機能を有することを見出した。これらの結果から、多様な機械受容イオンチャネルが固有の機能を筋衛星細胞で果たすことで、正常な骨格筋再生がもたらされることが示唆された。 また、筋衛星細胞において機械受容イオンチャネル類が感知する因子として、細胞の基質の硬さが想定される。そのため当該年度より、骨格筋や他の臓器と類似した硬さを示す培養ディッシュをそれぞれ用意し、各種遺伝子改変マウスより単離した筋衛星細胞を培養する実験する系を立ち上げた。本年度において筋衛星細胞のCa2+動態、活性化、増殖や分化に着目した研究を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究により、骨格筋再生時において機械受容イオンチャネルPIEZO1は筋衛星細胞の増殖を制御すること、さらに筋衛星細胞の自発的なCa2+流入にも影響を与えていることを見出した。また、多光子励起顕微鏡を用いた生体内で筋衛星細胞を観察することができる生体内イメージングの実験系を確立し、PIEZO1が筋衛星細胞の運動に寄与することを明らかにした。2021年度は筋衛星細胞の活性化機構に着目し、機械受容イオンチャネルの関係を明らかにした。遺伝子改変マウスの解析により、PIEZO1は筋衛星細胞の活性化を抑制することを見出した。一方で、同じ機械受容イオンチャネルであるにも関わらず、TRPM7は筋衛星細胞の活性化を促進することを見出した。これらの研究内容成果については、第7回 日本筋学会学術集会にて発表した。以上の進捗状況から、当初の計画を基に本研究が概ね順調に進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
・骨格筋の細胞力覚機構を明らかにするために、機械受容イオンチャネルPIEZO1とTRPM7に着目してきた。In silico解析により機械受容性が報告されているTRPP2が筋衛星細胞に発現していることを見出した。本年度は、単離筋衛星細胞や単離筋線維上の筋衛星細胞に対するRNA干渉法を用いたTRPP2ノックダウンの実験を通じて、その機能を明らかにしていく予定である。 ・骨格筋幹細胞は骨格筋肥大機能に重要報告されている。腓腹筋の腱を切除することにより、足底筋に機械刺激を加え、筋肥大を誘導する実験系を確立したため、各種遺伝子改変マウスを用いて解析を行っていく予定である。これまでのカルジオトキシンを用いた筋再生誘導を行ってきたが、本実験を行うことで筋肥大時における機械受容イオンチャネルの役割を明らかにする予定である。 ・遺伝性骨格筋疾患として、未成熟な筋再生が繰り返し惹起される筋ジストロフィーが知られている。筋ジストロフィー発症において、筋衛星細胞の機能不全もその一因であることが報告されているが、各機械受容イオンチャネルの、本病態における役割は未だ明らかになっていない。本年度は、筋ジストロフィーの病態モデルマウスmdxと各遺伝子改変マウスとを掛け合わせることで、病態における機械受容イオンチャネルの分子実体を明らかにする予定である。 ・機械受容イオンチャネルPIEZO1は骨格筋幹細胞の細胞分裂時に分裂溝に集積することをこれまでに見出した。前年度は、分裂溝に集積することが報告されている分子とPIEZO1は共局在することを見出した。本年度は、細胞分裂時におけるPIEZO1の詳細な下流経路を明らかにすることで、機械受容イオンチャネルと細胞分裂との関与を明らかにしたい。また今後は、機械受容イオンチャネルの幹細胞の品質維持機構に関して明らかにしていく予定である。
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