骨格筋に内在する幹細胞である筋衛星細胞は、骨格筋の再生に必須である。筋衛星細胞は周囲の変化を感知し活性化することで筋線維の修復・再生を行うことが想定されてきたが、その分子実態の全容は未だ明らかになっていない。特に、筋衛星細胞への物理的刺激の感知(細胞力覚)が重要な役割を果たすが、筋衛星細胞の細胞力覚機構の詳細は明らかになっていない。これまでに、筋衛星細胞にも発現する、細胞膜に膜張力が加わることによって活性化する機械受容イオンチャネルPIEZO1やTRPM7に着目し研究を行ってきた。 前年度の研究においては、研究内容(細胞膜張力により活性化される機械受容イオンチャネルPIEZO1が骨格筋の再生能に重要な役割を果たすこと)をもとに、当該年度はその分子機構解明を目指した。その結果PIEZO1は骨格筋幹細胞の活性化、細胞遊走、および細胞増殖時に、低分子量Gタンパク質RhoA活性化を惹起し、適切な筋再生をもたらすことを明らかにした。さらに、筋衛星細胞における微小環境変化に着目し、単離幹細胞を硬さの異なる培養ディッシュ上で増殖させたところ、野生型では基質の硬さに応じた増殖能亢進が見られたのに対し、Piezo1欠損筋衛星細胞ではその変化が見られなかったことから、PIEZO1は筋衛星細胞が周辺組織の硬さを感知するために必要であることが見出した。上記研究と並行して、PIEZO以外の機械受容機構の役割解明のため、機械受容イオンチャネルTRPM7の解析を行った。 また、当該年度ではTRPM7による筋幹細胞活性化の制御機構としてmTOR経路に着目した。単離筋線維上の筋衛星細胞でS6や4E-BPの活性化体を免疫染色法にて検出したところ、Trpm7欠損筋衛星細胞ではそれらの活性化が低下することを見出した。以上、TRPM7を介した細胞周期調節を介した、筋幹細胞活性化促進に関わる分子機構解明に成功した。
|