これまで進めてきた研究で我々は、M87とSgr A*という近傍の銀河中心天体におけるブラックホールとその周囲のプラズマ流の特性が偏光画像に色濃く反映されることを提示した。特にこれら2天体を分つ、大規模ジェットの有無という相違点が、シンクロトロン放射領域の違いにより円偏光成分の符号に定性的に異なる画像特徴をもたらすことがわかった。我々はこれらの結果を応用し、直線偏光・円偏光成分の画像上分布とプラズマジェット特性との関係を、より現実的な3次元モデルを用い定量的に調べた。その結果として、直線偏光成分が観測者に近いアプローチングジェットの下流側で強いのに対して、円偏光成分は観測者から遠いカウンタージェット側で明るいことがわかった。さらに我々は典型的パラメータにおけるこの結果を考えられる多様なモデルパラメータへと拡張して調べ、この「直線・円偏光成分のジェットに沿った分離」という結果が、降着円盤領域における陽子―電子温度比が大きい場合に特有であること、並びに分離が長波長画像や高降着率モデルにおいてより大きくなることを明らかにした。これらの結果は、ブラックホール最内縁部におけるプラズマ降着とジェット生成という問題に、偏光観測を通じた解決策を投じるものである。さらに我々はパラメータ範囲を広げ、M87やSgr A*のみならず種々の活動銀河核天体を念頭とし、様々な観測角度から見た際の偏光特徴を調べた。結果、上の分離をはじめとする特性が角度に応じて滑らかに変化しつつ多様な特徴を示すことがわかり、偏光観測が活動銀河核およびジェットの統一描像の実現につながることを提示した。我々はこれらの成果を論文にまとめ査読誌に投稿し、受理された。また成果を宣伝するため、国内外の各地の研究会に参加し、研究発表と議論を行った。さらに大学院における研究の集大成として、すべての成果を博士論文にまとめ受理された。
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