研究課題/領域番号 |
20J23039
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
湯山 孝雄 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | Hilbertの第10問題 / 計算可能性理論 / Diophantus方程式 / 群の語の問題 |
研究実績の概要 |
令和2年度前半はまず研究計画に基づき,有理数体Q上のHilbertの第10問題HTP(Q)の決定不能性の様々な特徴付けを試みた.手法としては,Qの部分環Rに対する同様の問題HTP(R)を考え,HTP(Q)のTuring次数とHTP(R)のTuring次数の関係を調べる,という形をとった.その結果,単にHTP(Q)が決定不能である(Turing次数が0でない)とかΣ^0_1完全であるなどの条件だけでなく,HTP(Q)が低次数を持つ・高次数を持つ・不完全次数を持つことの必要十分条件が得られた.この条件はQの「ジェネリックな」部分環Rに対するHTP(R)のTuring次数によって記述される位相的な条件である.さらに,この位相的な条件がある種のBanach-Mazurゲームと呼ばれる無限ゲームに関する必勝法の存在で特徴付けられることを示した.特定の仮定の下では,測度やランダムネスを用いた条件によっても特徴付けられることも証明した.以上の内容は論文にまとめ,論文誌に投稿中である. 令和2年度後半は群の語の問題に関する研究を行った.群の語の問題は群論における基本的な問題の一つであり,一般には決定不能な問題である.群の語の問題とHilbertの第10問題はともに代数学における決定不能問題という共通点を持つため,両方の問題を研究することによる相乗効果や研究の進展のためのヒントが得られることが期待される.有限表示群の語の問題の決定不能性の精密化の一つとしてMuller-Schuppの定理と呼ばれる結果があり,群の語の問題が文脈自由言語であるような群は実質的自由群に限ることが知られている.Muller-Schuppの定理の類似として,語の問題が制約オートマトン(constrained automata)によって認識されるような群のクラスについて考察し,得られた内容をいくつかの研究集会で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要で述べた通り,有理数体Q上のHilbertの第10問題HTP(Q)の決定不能性の特徴付けだけでなく,低次数を持つ・高次数を持つ・不完全次数を持つことの必要十分条件を得ることができた.これはR. G. Miller氏による既存の結果を大幅に強めるものであり,当初の研究計画に比べ,予想以上の進展であった.この成果により有理数体Q上のHilbertの第10問題に関して,一定以上の貢献ができたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べた通り,有理数体Qの部分環上のHilbertの第10問題に関しては一定の結果が得られたため,このトピックについては研究が一段落したと考えている.今後はより広い枠組みとして「代数学と計算論の関わり」という観点に立ち,群の語の問題と形式言語理論の関係を探求していく.特に,Muller-Schuppの定理を文脈自由言語以外の他の様々な言語クラスにも拡張していくことを目指す.
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