本研究では、一般に活性の低いバルク高分子材料中の力学応答性分子骨格(メカノフォア)の活性を向上させることを目的に、高分子構造とメカノフォアの応答性の関連について継続的に調査を行っている。力によって構造中心の共有結合が切断し、ピンク色の安定ラジカルを生成するジフルオレニルスクシノニトリル(DFSN)骨格をメカノフォアに選定し、視覚的変化や電子スピン共鳴測定を用いた発生ラジカルの定量により力学応答性の評価を実施した。 昨年度、マルチネットワーク(MN)ポリマーの伸長されたネットワークにDFSN骨格を導入する高分子設計によって、メカノフォアの力学応答性が大幅に向上することを明らかにした。本年度は、同じMNポリマーが従来の非電解性架橋高分子では到達不可能な、分子鎖が高度に伸長した膨潤状態を実現できることに着目し、溶媒膨潤によって誘起されるDFSNの力学応答、膨潤誘起型メカノクロミズムを見出した。本現象と伸長誘起型メカノクロミズムとの間に明確な関連性があることを見出し、これらの実質的な反応メカニズムが一致すると結論づけた。また、MNゲルに生成したDFSN由来のラジカル種は高い分子運動性を有するにも関わらず、架橋点の増加や伸長した分子鎖による分子拡散の抑制効果によって熱力学的に安定な二量体の再生が抑止されるため、メカノクロミズムとして観測されることを明らかにした。加えて、MNポリマーやゲルの伸長鎖に存在するDFSNは熱的解離反応が促進されることを見出し、開裂に伴うポリマー鎖の大きな構造緩和やDFSNに加わる張力、およびラジカル間の再結合頻度の低下といった複合的要因に由来する現象であると結論づけた。この研究成果は、Angew. Chem. Int. Ed.誌に掲載され、Inside Back Coverに選ばれたほか、プレスリリースを行い、複数の新聞やwebメディアに取り上げられた。
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