研究課題/領域番号 |
20J23072
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福本 紘大 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | DNAオリガミ / クライオ電子顕微鏡 / 単粒子解析 / リボソーム / 精製 |
研究実績の概要 |
転写や翻訳の反応では、反応の中核を担うRNAポリメラーゼ・リボソーム等に多くの制御因子が結合した複合体 (超分子) が形成されることで、高度な制御が行われている。このような超分子を試験管内で解析することは有用なアプローチであるが、細胞内の複合体には(おそらく未知因子を含む) 多数の分子の助けによって形成されるものも存在し、試験管内で再構成した既知因子による複合体と細胞内の複合体が異なる可能性がある。細胞中に存在する複合体を複合体のまま精製することができれば、細胞内に近い複合体の機能やその形成中間体を解析できると期待される。DNAオリガミは目的分子に結合する結合手の配置を自由に設計できる点で、細胞内に近い複合体を複合体のまま精製するための担体として有用である。昨年度までの研究から、DNAオリガミを用い、比較的単純な系でモデル分子リボソームを精製できることを示した。本年度は、その系を応用し、大腸菌破砕液からモデル分子リボソームを精製できる系の開発を行った。Streptavidinを結合させたDNAオリガミを用いることで、大腸菌の破砕液からSNAP-tagを介してbiotin化されたリボソームを精製でき、その構造をクライオ電子顕微鏡で観察できることを示した。単粒子解析で得られた構造において、直接タグ付けされていない30Sサブユニットが含まれていたことは、大腸菌破砕液中の70Sリボソームの複合体が調製できたことを示す。また、DNAオリガミ上のタグの数を増やすことで、単粒子解析の解析効率 (画像当たりの解析粒子数) が向上することを示した。これらの研究結果は、DNAオリガミを担体として用い、細胞破砕液の目的分子を精製しクライオ電子顕微鏡で解析する系を確立できたことを示す。本研究の成果は、DNAオリガミ上に複数種類の結合手を用いた多価精製を実現するために貢献すると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き、予定していた上海科技大学 (中国) での実験が新型コロナウイルスの影響で実施することができなかった。特に、実験設備や材料へのアクセスが困難であったため、当初予定していた蛍光1分子観察を用いた転写反応の評価をすることはできなかった。渡航が制限される中で当該研究目標を達成するため、別のアプローチで研究を行った。本年度の研究において、DNAオリガミを用いて大腸菌の破砕液から目的分子を精製する系を確立できたことは、細胞内に近い複合体の構造や機能を明らかにするために有用な成果である。大腸菌では転写と翻訳が共役して行われる。したがって、本研究で実現した細胞破砕液からのリボソームの精製は、転写・翻訳共役複合体の精製に貢献すると考えられる。以上から、計画通りに研究を進めることはできなかったが、代替手段を用いることで、本研究目的の達成に貢献する実験系の確立ができたと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
DNAオリガミを用いた精製法の利点は、DNAオリガミ上に配置した複数の結合手の空間配置を制御できる点である。そこで今後は、DNAオリガミ上に複数のタグ結合手を配置し、最適な空間配置でリボソームを含む超分子の解析を行う。これを実現するためには、結合手の種類を2種類以上に増やし、低親和性の結合手で超分子を複数個所で同時に捉える必要がある。そこで、DNAオリガミ上の複数の抗体やアプタマーを用いてリボソームを結合させ、精製する実験系の開発を目指す。技術的な課題が解決できれば、リボソームに活性制御因子が相互作用した複合体をDNAオリガミ上に結合させ構造の評価を行う。また、進捗によっては、転写翻訳複合体の精製と構造解析にも挑戦する。これらの研究を通して、遺伝子発現反応における分子配置の影響を明らかにする。
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