光重合技術は、ポリマーの形成を伴う固化現象に基づき、光接着や光造形に利用される技術である。加えて、光分解技術も材料の光照射部分に対して液化などといった性質変化を起こす光造形技術として知られている。両技術は共に材料の性質を光で微細に制御する技術として有用であるものの、単一の材料において両技術を組み合わせることは困難とされてきた。すなわち、光重合のみが可能な材料や光分解のみが可能な材料は広く知られてきた一方で、両反応を単一の材料で実現可能な材料はこれまでに開発されていない。これは一般に、光重合と光分解が競合することによって、ポリマーの形成が困難となるためである。仮に両反応を競合させることなく所望のタイミングで開始できれば、光接着と光解離を単一材料で制御することが可能となり、ポリマー材料の使用用途を拡大することにつながる。そこで本研究ではこのような新材料を実現させるため、光に安定である一方、酸と光によって分解可能な白金アセチリド型架橋剤に着目した。この白金アセチリド型架橋剤は光に安定であるため、光照射中であっても分解が起きることなく、重合反応のみを進行させることができ、弾性率の増加や接着などの物性変化をもたらす。一方、光重合後においては酸の添加により、白金アセチリド型架橋剤は光分解可能となる。このため、形成されたポリマー網目構造は酸と光により分解され、弾性率の低下や接着箇所の剥離が可能となる。このように、本研究では白金アセチリド型架橋剤を活用したことによって、光重合性と光分解性を両立する高分子材料を開発した。
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