研究課題/領域番号 |
20J23116
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
Wei Zixia 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | AdS/CFT対応 / ダブルホログラフィー / 因果律 / ブラックホール / 動く鏡モデル / 擬エントロピー |
研究実績の概要 |
本年度は主に以下の4つの方向性において研究を実施し、その成果を論文として発表した。 【ダブルホログラフィーにおける因果律と非局所性の解明】ダブルホログラフィーは、古典重力、量子重力、重力を含まない場の量子論を対応関係で繋げる枠組みで、近年の情報喪失問題の解決において重要な役割を果たしている。私達は、この対応関係における違う理論間の自己無撞着性に注目し、ダブルホログラフィーの因果律を明らかにし、ダブルホログラフィーの成り立つ強い根拠を与えた上、それに含まれる量子重力理論の非局所性を発見した。本研究の成果はJournal of High Energy Physicsに出版されている。 【ブラックホール終状態射影に現れる擬エントロピーの解析】特異点を持つブラックホールを背景にして場の量子論を考えると、特異点の位置に終状態への射影が自然に現れ、昨年度提案した擬エントロピーが定義できる。私達はこの擬エントロピーの性質を明らかにした上、これを用いてブラックホール内部の性質を調べた。本研究の成果はPhysical Review Dに出版されている。 【量子多体系における擬エントロピーの性質解明】昨年度に続き、私達は量子XYモデルを含めた多種多様な量子多体系において擬エントロピーの性質を明らかにした。また、より広いクラスのモデルにおいて、擬エントロピーが量子相の分類において重要な役割を果たすことを検証した。本研究の成果はPhysical Review Researchに出版されている。 【動く鏡モデルにおける動力学の解析】昨年度の動く鏡モデルに関する研究に続き、動く鏡モデルの動力学、及び違う動く鏡間の相互作用を明らかにした上、動く鏡モデルとダブルホログラフィーの関連性を明らかにした。本研究の成果はClassical and Quantum Gravityの招待寄稿として出版されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は合計4本の論文を出版したが、その中の1本がClassical and Quantum Gravityの招待寄稿として出版されている。又、ダブルホログラフィーの因果律と非局所性を議論した、Journal of High Energy Physicsに出版されている論文は、国際的な会議などで取り上げられていた。これらのことから、本年度の研究成果は世界から注目され、大きな影響力を持つと言える。 本年度の研究には、昨年度に続くものもあれば、本年度になって新しく芽生えたものもあり、様々なテーマを含んでいるが、皆それぞれ違う側面からAdS/CFT対応の基本原理を明らかにする上で重要な役割を果たしていると考えられる。具体的には以下の方向性において進捗を得ている。 1. 実時間のダブルホログラフィーを発展する方向性。ダブルホログラフィーはAdS/CFT対応の拡張で、古典重力、量子重力、重力を含まない場の量子論という三つの理論を関連づけるものであるが、今までのダブルホログラフィーの研究は、虚時間で計算した上、実時間に接続するものが多かった。そこで、私達の研究は、実時間でダブルホログラフィーを扱い、因果律と非局所性を含めた様々非自明な構造を見出し、ダブルホログラフィーの発展に大きく寄与し、AdS/CFT対応の理解にも役に立てている。 2. 擬エントロピーをブラックホール物理へ応用する方向性。昨年度私達によって提案された擬エントロピーは、既に量子多体系を含めた、多くの物理系での有用性を示してきた。本年度は、私達はこれをAdS/CFTを介してブラックホール物理へ応用し、ブラックホール特異点に関する有用な情報を得ている。そのため、本進捗はAdS/CFTの新しい対応を解明した上で、ブラックホールへの新しい理解にも繋がっている。 以上の成果から本年度の研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、「負の曲率を持った反ド・ジッター時空(AdS)中の量子重力理論とその漸近境界における共形場理論(CFT)が等価である」というAdS/CFT対応を解明し、量子重力の研究に利用することを目的としている。その過程において、AdS/CFTとテンソルネットワークの関連性に注目しながら、量子情報理論を活用することを特色としている。この特色にふまえて、今後は以下の方向性において研究を推進する予定である。 1. ホログラフィーをテンソルネットワークを用いた数値計算に利用する方向性。今までは、ホログラフィーにおけるテンソルネットワークは、ホログラフィーの理解を助けるための玩具模型として位置付けされていた。しかし同時に、テンソルネットワークは量子多体系を効率的にシミュレートするための手法としても知られている。そこで、ホログラフィーの知見を持って、逆にテンソルネットワークを用いた数値計算を発展させることも考えられ、大きな成果が見込まれる。 2. 統計力学をホログラフィーの研究に活用する方向性。本研究は、量子情報理論とテンソルネットワークを特色としているが、この両者は量子多体系の統計力学とも深く関連している。そこで、本研究に方向性として、統計力学をホログラフィーの研究に活用することが考えられる。具体的には、統計力学における典型性に注目して、AdS/CFTにおけるブラックホールの微視的構造を解明していく予定である。本方向性は、AdS/CFT対応そのもの解明にも大きく寄与できると考えられる。
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