本年度は以下の方向性において研究を実施し、その成果の一部を論文として発表した。 【動く鏡モデルの拡張】動く鏡モデルは古くよりブラックホール蒸発の玩具模型として研究されてきたが、ブラックホール蒸発にとどまらず、可解なダイナミクスを与えるという点においても重要な模型である。そこで私達は二次元共形場理論において動く鏡の系統的な分類を行い、動力学的な性質を調べた。本成果はJournal of High Energy Physicsに出版されている。 【AdS/BCFT対応における励起に関する研究】AdS/BCFT対応は通常真空の周りで研究されてきたが、本研究において、重い励起を含むAdS/BCFTを共形ブートストラップ法で、軽い励起を含むAdS/BCFTをブレーン上に局在する物質でそれぞれ調べた。その過程で、AdS/BCFTにおけるレニーエントロピー公式の導出に成功し、新しいダイナミカルなエンタグルメント相転移を発見した。本成果は2本の論文として纏められており、Journal of High Energy Physicsに出版されている。 【ブラックホール微視状態の性質解明】統計力学の手法を用いて、内部を持たないブラックホール微視状態の状態空間を占める稠密度を調べ、ブラックホール微視状態を理解する上で「典型性」の重要性を明らかにした。本成果を纏めた論文はプレプリントとして公開されており、現在雑誌投稿中である。 【ホログラフィーを用いたテンソルネットワークに基づいた計算法に関する研究】ギャップを持たない量子多体系の有限温度における数値計算は一般には困難だとされている。そこで、私達はホログラフィーとギャップを持たない量子多体系の類似性に注目し、テンソルネットワーク法を用いた有限温度のシミュレーションの複雑性を評価し、検証を行った。本成果をまとめた論文は現在執筆中である。
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