研究課題/領域番号 |
20J23117
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
篠田 樹 九州工業大学, 生命体工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 光触媒 / 赤外光音響分光 / 欠陥準位 / トラップ電子 / 酸化チタン / エネルギー変換型光触媒 |
研究実績の概要 |
前年度は,液相中で「光触媒粒子中の欠陥準位測定」が可能な装置を開発するために,新規導入したグレーティング分光器を用いた赤外光音響分光測定系(GIR-PAS)を立ち上げ,気相中におけるTiO2粉末の欠陥の評価を行った.前年度までに開発したフーリエ変換赤外分光光度計を用いた測定系(FTIR-PAS)との比較検討を行うことで,GIR-PASの妥当性を実証したとともに,定常光照射下における電子蓄積過程の分光計測が可能になった.この成果は,今年度学術論文誌に投稿し,J. Phys. Chem. C誌に掲載された. 今年度は,気相中の実験で妥当性を確認した測定系において,液相中での測定を可能にするべく,装置の改良を行った.液相用測定セルを開発し,TiO2懸濁液などの試料に適用したところ,CaF2板にTiO2粉末を固定した試料において,液相中でトラップ電子に由来する微小な吸収の高感度検出に成功した.様々なTiO2試料に対して同様の測定を行い,気相中の結果と比較することで,液相中と気相中ではトラップ電子のエネルギー状態が異なることが示唆された. 次に,液相中での電子挙動をより詳細に調べるために,GIR-PASの光源よりもハイパワーな赤外光源を用いた測定系の立ち上げを行った.この測定系は,GIR-PASに比べて波長分解能は劣るものの,より広範囲にわたって電子の蓄積・放出挙動の追跡が可能となった.また,本手法は粉末試料にも適用でき,気相中での電子蓄積過程に関してGIR-PASよりも詳細な解析を行うことできた. 前年度に引き続き,FTIR-PASを用いて,気相中におけるエネルギー変換型光触媒粒子(Rh,Sb共ドープSrTiO3,IrドープSrTiO3など)の欠陥準位の解析を行った.これにより,金属ドーピングによって半導体中に形成された不純物準位が電子トラップサイトとして機能することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた懸濁反応系における「光触媒粒子中の欠陥準位測定」に関しては,トラップ電子に由来する吸収の検出に成功はしたものの,光源の光強度が低かったことが原因でその吸収強度は非常に小さく,系統的な解析を行うのは困難であった.この問題を克服するために,測定試料の改良を行ったところ,トラップ電子に由来する微小な吸収の高感度検出に成功し,系統的な解析を行うことができたとともに,気相中の結果との比較検討を行うことができた.また,GIR-PASの光源よりもハイパワーな赤外光源を用いた測定系を立ち上げ,より広範囲にわたって電子挙動の追跡に成功した.さらに,粉末系にも適用することで,気相中での電子蓄積過程に関してGIR-PASよりも詳細な解析を行うことできた.前年度に引き続き,FTIR-PAS測定により,気相中におけるエネルギー変換型光触媒粒子の欠陥準位の解析を達成できた.得られた成果に関して,学術論文誌への投稿も順調に行えており,続報も準備中である.以上の理由により,現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると考えた.
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き,TiO2試料のGIR-PAS測定を行い,系統的な解析を行うことで,粒子サイズや比表面積などの物理化学的特性の違いがトラップ電子のエネルギー状態に与える影響を明らかにする.また,TiO2以外の酸化物半導体(WO3,Nb2O5,SrTiO3,ZnOなど)やエネルギー変換型光触媒についても同様の測定を行い,欠陥準位の評価を行う. 次に,今年度立ち上げた測定系を用いて,電子ドナー存在下かつ不活性雰囲気下でTiO2試料の測定を行い,励起光照射により生成した電子の挙動を観測し,液相中での電子蓄積過程を明らかにする.また,蓄積電子に由来する光音響信号の飽和後,励起光照射を止め,酸化還元電位の異なる金属イオンなどの様々な電子アクセプタを注入し,電子の放出挙動(電子アクセプタの還元反応)を追跡する.これにより,トラップ電子のエネルギー準位と電子アクセプタの酸化還元電位との相関関係から,トラップ電子の反応機構解明を目指す.さらに,本手法を用いた蓄積電子の放出量の解析に加えて,生成物の分析も行うことにより,様々な光触媒反応の効率化を目指す.TiO2以外にも,伝導帯下端の電位が異なる半導体光触媒に対して同様の測定を行い,トラップ電子の反応性を明らかにする. 次に,上記の手法を粉末系に適用し,酸素分圧や電子ドナーとしてのアルコールの種類を変え,様々な条件で気相中での電子挙動を解析することにより,有酸素下における電子の蓄積・放出過程を明らかにする.また,光音響解析で得られた結果と光触媒活性(2-プロパノールの気相酸化反応など)との相関を調べる. 得られた成果は学会発表や学術論文誌への投稿などにより外部発信していく予定である.
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