前年度までに,赤外光音響分光法を用いて,酸化チタン(IV)や金属ドープ酸化物などの様々な半導体光触媒粒子中の電子トラップサイトのエネルギー分布と機能を明らかにしてきた.今年度は,ボールミル処理によって光触媒粒子に形成された欠陥に着目した.ボールミル処理は光触媒の微粒子化や複合化を行うための容易な手法である.赤外光音響分光法をボールミル処理したルチル型酸化チタン(IV)に適用することで,ルチル特有の欠陥準位(伝導帯下端から約1 eV)に加え,ボールミル処理により非常に深い欠陥準位(伝導帯下端から約1.7 eV)が形成されることを明らかにした.ボールミル処理した試料の光触媒活性を試験したところ,ボールミル処理前に比べ,活性の劇的な低下が確認された.このことから,ボールミル処理したルチル型酸化チタン(IV)の光触媒活性因子はボールミル由来の非常に深い欠陥準位であることを見出した.この成果は,今年度学術論文誌に投稿し,J. Phys. Chem. C誌に掲載された. 前年度に開発した液相中で測定可能な赤外光音響分光装置を用いて,液相中における光触媒粒子中のトラップ電子の蓄積・放出過程を追跡した.赤外光音響分光法をアナタース型酸化チタン(IV)に適用し,酸化チタン(IV)中にトラップ電子を蓄積させた後,電子アクセプタを系内に添加した.鉄(III)イオンや過酸化水素などの様々な電子アクセプタ添加に伴うトラップ電子の減衰挙動を解析することにより,トラップ電子の反応性は主に欠陥準位と電子アクセプタの酸化還元電位とのエネルギー差に依存することを見出した.この成果は,今年度学術論文誌に投稿し,Chem. Lett.誌に掲載された.結晶構造の異なるルチル型・ブルッカイト型の酸化チタン(IV),酸化タングステン(VI)についても,同様に液相系光触媒反応場におけるトラップ電子の挙動解析に成功した.
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