研究課題/領域番号 |
20J23137
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
我毛 智哉 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / ワイドギャップ半導体 / 点欠陥 / ドーピング |
研究実績の概要 |
本研究では、高精度第一原理計算を用いて、酸化物半導体をp型化するための設計指針を構築すると同時に、革新的なp型酸化物半導体の探索を行うことを目的とした。その第一段階として、構造多形なども含めた数十種類の酸化物半導体の候補を対象に、自己束縛正孔の安定性や、競合する意図しないドナー型欠陥の有無、アクセプターの選定などの体系的な調査を行った。その結果、価電子帯が純粋な酸素のp軌道によって形成される系をp型化することは、極めて困難であることが示唆された。この知見に基づき、カチオンの軌道が価電子帯の酸素の軌道と混成するような系等に焦点を当て、同様の検討を行った。これにより、ワイドギャップとp型実現可能性を同時に有するいくつかの物質を選出した。現在、これらの物質に関して、実験チームと連携して計算結果の検証を進めている。 また、ワイドギャップ酸化物の探索の副産物として、興味深い性質を示すいくつかの物質が得られた。その一つは、酸素空孔が特異な電子状態を示す物質で、一般的なワイドギャップ半導体中の酸素空孔とは異なり、空孔近傍に余分に電子をトラップすることが可能である。今後、この特徴が構造特有のものであるかを判断するために、類似の構造を有する他の物質についても検討を進める予定である。もう一つは、第一原理計算で使用する近似によって、その物質のキャリア特性を支配する主要な欠陥種の局在状態が変化する物質である。現在、バンドギャップの実験値を再現するような近似を用いた場合に、局在状態が正しく評価されているかという点に着目して、さらなる検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
典型的なワイドギャップ酸化物を含めた数十種類の物質について、自己束縛正孔の安定性や、競合する意図しないドナー型欠陥・適切なアクセプター不純物の有無などの観点から、第一原理計算によりp型化実現可能性の評価を行った。その結果、以下の2つの知見を得ることができた。1)ワイドギャップ酸化物全般において、酸素空孔によるホールの補償が起こりやすい。2)価電子帯が純粋な酸素のp軌道で形成される場合は、自己束縛正孔が安定化しやすく、それに伴ってアクセプター不純物が深い準位を作りやすい傾向にある。これらの知見を踏まえて、カチオンのs軌道やd軌道等が酸素のp軌道と混成し価電子帯を形成する系に探索対象を絞った。この方針のもとでデータベースから候補物質を抽出し、固有点欠陥形成・ドーピングに関する計算を行うことで、p型化実現可能性があるいくつかの物質を選出した。 また、ワイドギャップ酸化物の探索を進めていく中で発見した物質系1, 2において、以下の性質に焦点をあてた研究も遂行中である。1)フェルミレベルを伝導帯付近まで上げると負に帯電した酸素空孔の状態が安定化する。2)p型導電性を特徴づける欠陥種の電子状態が、計算に使用する近似によって変化する。1)について、一般的なワイドギャップ酸化物中の酸素空孔の荷電状態は、フェルミレベルが上がるにつれて+2から0まで変化するが、この物質系1では、空孔サイトだけでなく、空孔近傍に電子を捕獲することが可能で、その結果、負に帯電した特異な状態が安定化することが示唆された。2)について、空孔もしくはアンチサイトがホール生成に寄与すると従来考えられていた物質において、これらの欠陥種の局在状態が使用する近似、具体的にはハイブリッド汎関数におけるFock交換項の割合によって大きく変化することがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要に記した今後の研究の展開に加えて、新規p型ワイドギャップ半導体を開拓するために、これまでに得られた知見に基づいた設計・探索指針の下でハイスループットスクリーニングを行う。候補物質の安定性、バンドギャップ、有効質量などを条件とし、研究室独自の計算データベースからスクリーニングを実施する。有望であると判定された物質に対しては、より高精度な第一原理計算を用いてその基礎物性を再評価する。さらに選出された物質について、自己束縛正孔の安定性や、競合する意図しないドナー型欠陥・適切なアクセプター不純物の有無などの観点から、p型化実現可能性の評価を行う。一連の検討から、p型ワイドギャップとして有望であると判定された物質に関して、実験チームと連携して計算結果の検証を進める。
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