本研究では、高精度第一原理計算を用いて、酸化物半導体をp型化するための設計指針を構築すると同時に、革新的なp型酸化物半導体の探索を行うことを目的とした。数十種類の酸化物半導体の候補を対象とした体系的調査の結果、価電子帯が純粋な酸素のp軌道によって形成される系をp型化することは、極めて困難であることが示唆された。この知見に基づき、カチオンや酸素以外のアニオンの軌道が価電子帯の酸素の軌道と混成するような系等に焦点を当て、p型化可能性に関する検討を行った。その結果、以下の3つの結論が得られた。(i) 価電子帯上部が主に酸素のp軌道以外から形成される系では自己束縛正孔が不安定になりやすい。(ii) 軌道の混成は必ずしも酸素空孔の形成を抑制せず、他のドナー型欠陥によるキャリア補償も問題になる。(iii) 軌道の混成は浅いアクセプター準位の形成という点でも有効である。(ii) のドナー型欠陥によるキャリア補償を抑制する因子を特定するためには、比較的大きな格子間空隙にカドミウムが容易に入り込むLa2CdO2Se2 (Journal of Materials Chemistry C 2022) のような明瞭な場合を除いて、さらなる検討が必要であることを指摘した。 また、実験研究者の協力により、新規4元系オキシサルファイドとオキシセレナイドの発見に成功した。これらの物質の価電子帯上部は主にカルコゲンのp軌道によって形成され、自己束縛正孔はいずれの系でも不安定であった。酸素空孔はオキシセレナイドでは比較的形成され難いが、オキシサルファイドではキャリア補償の原因となった。オキシセレナイド中のいくつかのドーパントは、比較的形成エネルギーの低い浅いアクセプターになることがわかった。これらの結果から、新たに発見されたオキシセレナイドは、ワイドギャップp型半導体の有望な候補であることを提案した。
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