研究課題/領域番号 |
20J23160
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 智大 京都大学, 地球環境学舎, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 自然由来重金属等 / 吸着層工法 / カラム通水試験 / 移流分散解析 / 吸着材 / 土壌汚染対策法 / 水和反応 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、地質に自然由来で含まれる重金属等への対策工の一つである吸着層工法について、特に地盤中を水が浸透する様子を模擬した吸着性能の評価に取り組んだ。具体的には、酸化マグネシウム系材料を珪砂に添加した吸着層材料に対し、フッ素を含む溶液を通水するカラム吸着試験、および蒸留水を通水する脱着試験を行った。これらと並行して、本研究の核となる地盤の不均質性を考慮した吸着性能評価を目指し、実験および解析の両面から検討を進めた。さらに、吸着層へ流入する重金属等の負荷を嫌気条件下で評価する溶出試験方法も行った。 カラム吸脱着試験では、酸化マグネシウム系材料の添加割合が10%程度と小さい値であっても、通水した90%以上のフッ素を吸着層内に固定化できる可能性が明らかになった。また、当初の計画に追加してXRD分析も実施し、酸化マグネシウム系材料が現場で材質変化する可能性も検討した。吸着層が長期に渡り性能を発揮するためには、急激に材質変化しないような材料を用いて施工する必要性が明らかになった。なお、当初は飽和条件だけでなくより現実に近い飽和条件でも実施する予定であったが、不飽和条件下での通水試験は想定より非常に時間を要するため飽和条件の実施に留まった。不飽和条件下での吸着性能評価は当初の計画から一部変更し、移流分散方程式を用いた数値解析手法により検討した。吸着性能が不均質で非線形の吸着モデルが適するような結果がカラム試験から得られた際に、線形吸着モデルを用いて吸着パラメータを取得し、両者の乖離の程度を調べることで現行の評価方法の適用範囲を示した。 これらの成果は、学術雑誌や複数のシンポジウムで発表した。従来の環境化学の視点のみならず、土構造物としての吸着性能評価を試みたうえ、実現場における吸着材の材質変化や吸着性能の不均質性に言及した点は当該分野の発展に寄与する学術的意義のある知見と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は、自然由来重金属等に対する吸着層工法について土構造物として捉えた性能評価を行うことであり、特に1) 地盤中を水が浸透する様子を模擬した評価、および2) 地盤の経年変化と不確実性が吸着性能へ及ぼす影響の評価を目的としている。以下、現在までの進捗状況を示す。 前者の地盤中を水が浸透する様子を模擬した評価では、酸化マグネシウム系材料を珪砂に添加した吸着層材料に対し、フッ素を含む溶液を通水するカラム吸着試験、および蒸留水を通水する脱着試験を行った。吸脱着試験から、酸化マグネシウム系材料の添加割合が10%程度であっても、通水した90%以上のフッ素を吸着層内に固定化できる可能性が明らかになった。また、当初の計画に追加してXRD分析も実施し、酸化マグネシウム系材料が現場で材質変化する可能性も検討し、目的は概ね達成できたと考える。 後者の経年変化の影響評価では、吸着層材料の材質変化を考慮した透水試験の実施を予定している。先に実施したXRD分析の結果を踏まえ、試験条件の検討段階にある。しかしながら、実験条件の決定と予備実験は終えており、次年度に実験を重ねデータを蓄積していくことで最終目的は達成できると考える。 当初は2, 3年目に実施を計画していた吸着層に流入しうる重金属等の負荷を先行して検討した。土壌汚染対策法で規定された公定試験方法を準用して嫌気条件下での溶出特性評価手法の確立に取り組んだ。脱気水を用いて脱気装置内で試験を実施することで公定法に比べて溶存酸素濃度を75%程度削減でき、嫌気的条件を実現できる可能性が示された。 以上が現在までの進捗状況であり、期待通りの成果が得られたと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討で、当初予定していた地盤中を水が浸透する様子を模擬した吸着性能評価を実施し、実現場で土・水・MgO系吸着材を混合した際に起こりうる吸着材の材質変化の様子を明らかにした。今後は、他の吸着材への適用性評価を行い、材質変化の影響が小さい材料を調べる予定である。また令和3年度以降は、本研究の核となる地盤の経年変化と不確実性が吸着性能へ及ぼす影響の評価に取り組む予定である。 地盤の経年変化を考慮した吸着性能評価では、圧密試験装置を用いて供試体に荷重を与えながら吸着能力を評価するカラム通水試験を実施する。実現場において、自重による変形や原地盤の沈下により盛土の間隙構造が変化し、吸着性能の低下につながる恐れがある。今後はより実現場の条件に近い、載荷条件下での吸着性能を評価する予定である。 吸着能力の不確実性については、選択流が発生した場合でも地盤の保水力を活かして浸透流を平準化する試験を実施する。吸着能力の破過が起こりにくいような盛土構造を土槽試験によって検討することが目的である。試験に用いる土試料の粒度分布や含水比をパラメータとして、浸透水の平準化に影響を及ぼすサクション等の影響を考察する。これにより、環境化学的な視点から吸着量のみを評価していた従来の吸着層の性能評価から、よりマクロな視点である土構造物として捉えた評価を行うことができる。博士論文ではこれらの内容をまとめ、学術雑誌に投稿することを計画している。
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