自然由来の重金属等(ヒ素,フッ素など)を含む掘削土を盛土材として活用する際の,重金属等の地下水への流出を抑制する手法の一つである「吸着層工法」の設計に関して,有害物質を含む水が浸透する際の土―水の接触時間や間隙率の違いなど,地盤工学上のパラメータを考慮して性能評価を行った事例は限られている。そこで本研究では,供試体に溶液を連続的に通水するカラム式の吸脱着試験を実施し,より実現場に近い条件下で吸着層の性能評価を行った。具体的には,珪砂(母材)に,代表的な吸着材である酸化マグネシウム(MgO)が主成分の材料を混合して供試体を作成し,10 cm高さのカラム試験によってフッ素に対する吸着性能を評価した。カラム吸着試験から得たフッ素の排出濃度プロファイルについて移流分散方程式を用いた逆解析を実施し,吸着性能を示すパラメータである分配係数の推定を試みた。その結果,吸着材を添加した地盤において,既存の移流分散方程式では浸透水の化学物質濃度や吸着性能の賦存量を表現できない可能性が明らかになった。そこで,有害物質を含む溶液を通水する吸着試験の後に,蒸留水を通水する脱着試験を連続して行い,吸着量と脱着量を算出することで,新たに両者の差から吸着層に捕捉される「固定化量」を評価できることを定量的に示した。 盛土の施工時には母材と吸着材に水を加えて混合し締固めを行うため,実環境では吸着材は有害物質を捕捉する前に水和反応によって変質し,吸着性能が低下することが懸念された。そこで本研究では,母材―吸着材―水を混合した供試体を最大27日間養生し,それら試料に対してX線回折分析を行った。その結果,高い吸着能力を有する成分のMgOは時間の経過とともに変質するものの,完全に消失することはないことが判明した。本研究を通じ,水との接触が想定される実地盤での,吸着材の構成物質が変質する可能性を判定する手法が示された。
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