令和四年度は,昨年度に開発した行列の同時分解に関する効率的なアルゴリズムを拡張し,複数の行列がより複雑に基底を共有する場合にも適用できる分解手法を提案した.この結果は,Information Geometry 誌に採択された.また,令和三年度まで扱っていたテンソルの低ランク近似は,その最適化における不安定性や,不良設定性,最適なランクの決定に関する困難性が知られている.そこで,テンソルのランクではなくモード間の相互作用に着目する新しいテンソル分解を開発した.モード間の相互作用を情報幾何学の自然パラメータで制御できることを発見し,隠れ変数のないボルツマンマシンの多準位かつ高次の相互作用を許す拡張としてテンソル多体近似を定式化した.従来のテンソル分解では予め分解のランクを指定する必要があったが,本手法ではエネルギー関数を用いてモード間の相互作用の有無や次数を指定する.従来の低ランク近似が潜在変数を用いる分解として解釈できる一方,本手法は可視変数のみを用いる分解であるため,解の一意性や分解表現の優れた解釈性を有する.また,テンソル内の相互作用を直感的に記述する相互作用表示を導入し,この相互作用表示をテンソルネットワークに変換することで,従来の低ランク近似とテンソル多体近似との関係性も明らかにした.更にこの手法の応用として,テンソル形式のデータの欠損補完法を開発した.以上の結果についてのプレプリントは既に公開し,現在国際会議に投稿中である.
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