研究課題/領域番号 |
20J23198
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
NG SU PING 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | Methylglyoxal / Adipocyte |
研究実績の概要 |
本研究では、エネルギー恒常性の維持に寄与する脂肪細胞における糖代謝と脂質代謝との機能的な関連性について、代謝性シグナル分子の視点から『解糖系代謝物による脂質代謝シグナル制御機構』モデルを立案している。本モデルの立証のためのモデル代謝物として、先行研究で脂質代謝系への関与が示唆された解糖系代謝物メチルグリオキサール(MG)をその一つの候補代謝物として着目した。
本年度は、主に脂質代謝関連シグナル伝達経路に対するMGの影響について検討を行った。脂肪細胞の脂質代謝系は大きく、脂肪合成と脂肪分解に大別され、それぞれがインスリンとβアドレナリンの刺激によって活性化される。MGの脂肪合成への影響については、3T3-L1脂肪細胞を用いて細胞内MGレベルが上昇する条件下でのインスリン伝達経路の活性をAktやS6Kのリン酸化レベルなどを指標に評価した。その結果、細胞内MGがS6Kのリン酸化レベルに関与することによりmTORC1-S6K経路を活性化し、インスリンシグナル伝達系の因子であるAktなどのリン酸化を抑制することにより、インスリン刺激による糖取り込みを阻害したことを見出した。その反面、細胞内MGレベルの上昇がβアドレナリン刺激時に活性化されるプロテインキナーゼAの標的分子であるHSLおよびペリリピンのリン酸化レベルなどの上昇に影響がないことに加え、βアドレナリン刺激時のグリセロールおよび遊離脂肪酸レベル上昇に変化をもたらさなかったことで、細胞内MGが脂肪分解活性に影響しないことが明らかとなった。一方、ベージュ脂肪細胞において、同じくβアドレナリン刺激によって活性化される熱産生に寄与する脱共役タンパク質1(Ucp1)の発現上昇が細胞内MGレベルの上昇により抑制されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メチルグリオキサール(MG)が脂肪細胞機能に及ぼす影響について、MGレベルの上昇がmTORC1-S6K経路の活性化を介してインスリンシグナルを抑制することで、インスリン依存的な糖取込みを抑制することを明らかにした。また、βアドレナリン受容体刺激によって活性化される脂肪分解経路についての検討で、MGレベルの上昇が脂肪分解活性に影響を及ばないことを見出すとともに、βアドレナリン受容体刺激によって誘導される熱産生関連遺伝子の発現に対しては負に作用することを明らかにした。
以上のように令和2年度の研究では、これまで不明であったMGの脂肪細胞機能に及ぼす作用の一端を明らかにすることができた。そのため本研究の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、細胞内MGレベルの上昇がベージュ脂肪細胞の熱産生機能に寄与するかどうかβアドレナリン刺激時のUcp1以外の遺伝子発現(Fgf21、Dio2など)を解析する。また、ベージュ脂肪細胞の熱産生機能はミトコンドリア機能に依存しているため、細胞内MGレベルの上昇がミトコンドリア機能に影響を及ぼすかどうかについても検討する。ミトコンドリア機能の評価は細胞外フラックスアナライザーを用いた細胞の酸素消費速度測定などにより行う。
これまでに、酸化ストレス, DNA損傷,高浸透圧,小胞体ストレスなどのストレスに応答して活性化されるp38やJNKなどのストレス応答性MAPキナーゼ(MAPK)が脂肪細胞熱産生に関与することが示唆されている。一方、MGもまたp38やJNKの活性化に関与することが指摘されている。そこで、細胞内MGレベルの上昇によるβアドレナリン刺激時のUcp1発現低下にMAPKの活性化が関与するのか検討する。MGの各MAPKへの影響については、MAPKのリン酸化レベルを指標としたウエスタンブロット解析により検討する。また、MAPKの作用を確認するため、細胞内MGレベルの上昇によって有意にリン酸化レベルの上昇が認められたMAPKの阻害剤を用いてMGによるUcp1発現の抑制が回復するかどうか検討する。
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