研究課題/領域番号 |
20J23239
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
女部田 勇介 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | Zn負極 / Zn電解析出 / 第一原理計算 / kinetic Monte Carlo法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、Zn負極上におけるZn析出時の結晶成長機構の解明である。特に二次電池性能低下の原因となる、平滑でない異常な析出の成長機構に焦点を当てる。この析出機構の特定によって、Zn二次電池の大規模蓄電池としての応用を視野に入れた、亜鉛負極の異常析出という課題の解決を目指している。この解析のため、第一原理計算とkinetic Monte Carlo(KMC)法を組み合わせたマルチスケールシミュレーション及び電気化学測定等の実験を行っている。 電析時には基板表面において、原子レベルで特に重要な過程は、吸着原子の表面拡散である。そこでZn吸着原子の表面拡散の活性化障壁を第一原理計算により解析し、そこで得られたパラメータを用いてシミュレーションが可能なKMCプログラムを作成した。これらのシミュレーション結果を、実験手法によって得られた結果と照らし合わせた。この結果、異常析出の前兆として現れる層状構造の析出は、面方位に依存した表面拡散のしやすさのバランスに由来することが分かった。さらに、Znの結晶成長機構に影響すると予想されている、Li+を用いた場合についても解析を行ったところ、Li+が作る特異的な溶媒和構造に起因してZn吸着原子の表面拡散挙動が変化することが示唆された。KMCシミュレーションからは、(0001)の優先的成長も示唆された。実際に実験を行ったところ、LiOH条件下で(0001)が成長することが確認できた。このようにして、マルチスケールシミュレーションと実験の両側面からの検証によって、Li+添加時のZn結晶成長機構を明らかにすることができた。 これらの結果を、国際学会2件、国内での招待講演1件として発表している。また、報文1報を執筆中であり、LiOH添加による影響について報文の執筆に向けてまとめを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は第一原理計算とkinetic Monte Carlo(KMC)法と呼ばれるシミュレーション手法を相補的に用いたマルチスケールシミュレーションによって、Znを電気化学的に析出させた際の形態及び結晶成長過程の解析に従事した。当初の予定通り、KMC法を用いた電解析出シミュレーションが可能なプログラムを構築し、第一原理計算においても原子・分子レベルのシミュレーションとしてZn原子の表面拡散過程を詳細に解析した。これらの2つの手法を運用する際には、まず第一原理計算解析によって得られたパラメータを、KMC法に適用する、という二段階のシミュレーションプロセスを踏むことで、原子・分子レベルの情報を拡張した電析シミュレーション結果を得ることができている。加えて実験手法による解析も、研究班における実験従事メンバーと議論しながら進めている。この中では、週に2から3回程度、実験班メンバーとのミーティングを自ら企画し、実験手順や方法について、詳細な検討を進めた。この取り組みを通して、上記のようなLiOHを添加剤として用いた場合のZn電析時の結晶成長機構について、シミュレーション及び実験の両側面から明らかにした。これにより、従来では解析が困難であった原子・分子レベルの現象としての電析機構について、実験レベルのスケールにつなげた議論を可能としている。 このような研究への取り組みによって、昨今の情勢で展開されたオンライン環境においても、精力的な成果報告を行った。2020年5月及び10月に国際学会における発表を行い、2021年1月には非鉄製錬学Web討論会において招待講演も行った。現在は、マルチスケールシミュレーションによる解析に関する報文1報をまとめており、添加剤に関するテーマもデータ整理及び執筆作業を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に行った添加剤の効果に関する研究内容を発展させ、金属添加種であるPbに着目して、マルチスケールシミュレーション及び実験的解析を行う。従来検討より、Zn電析へのPb添加時には、マイクロオーダーのZn柱状析出が現れ、その柱状析出はZnの(002)によって構成されることが示唆されている。しかし、このような析出をもたらすPbの働きのメカニズムは明らかになっておらず、新規添加剤の設計に向け、その重要因子を理解することが不可欠である。このPbの作用機構を明らかにすることを目的として、Pb添加時におけるZn電析実験を行い、さらにマルチスケールシミュレーションも行うことで、Pbの効果を検討する。これにより、シミュレーションと実験の双方からの考察を進める。 Pb添加時についての効果を解析するために、電気化学測定プロファイルや薄膜の形態、結晶構造の観察を通して、Pbの働きを特定していく。さらに昨年度までに用いてきた、第一原理計算によって、PbのZn表面への吸着様式を明らかにし、特に各面方位におけるPbの吸着を計算し、Zn表面におけるPbの存在状態を検討する。加えて、Znの結晶成長に重要となると示唆されている、Zn原子の表面拡散に対する影響についても実験結果に応じて計算を行う。このパラメータを用いてKinetic Monte Carlo法によるシミュレーションも行いたい。特に、これまでに示唆されている、異常析出の前兆としての層状構造から析出する微小な突起の析出との関係も含めて明らかにする。 これらの解析により、Zn電解析出時におけるPbの働きを電子状態から理解し、異常析出の抑制のための指針を検討する。またこの結果を通じて、他の添加剤を利用した場合のZn電解析出及びその電気化学測定を行うことも検討しており、シミュレーション結果と比較して、次年度以降への知見とし、報文の執筆及び学会発表を行う。
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