研究課題
後天性免疫不全症候群 (エイズ)は、ヒト免疫不全ウイルス1型 (HIV-1)感染を原因とする疾患である。また、エイズに対する抗ウイルス薬の開発が進み、エイズ発症の抑制は可能である。しかしながら、ウイルス排除による根治療法は未だ確立されていない。その原因の一つは、感染個体内においてHIV-1感染細胞が潜伏化するからである。これまでの一連のバイオインフォマティクス解析技術を駆使した網羅的遺伝子発現解析の研究から、一部のHIV-1産生細胞は潜伏化するなど、その感染様式が異質性をもった細胞の集団であることがわかってきた。本研究では、HIV-1感染細胞ごとの「ウイルス産生」、「ウイルス抑制」、「死滅」、「潜伏感染」状態に関する細胞異質性の実態を解明し、それらの異質性を規定する遺伝子同定のためにバイオインフォマティクス解析を行い、ウイルス学実験によってその異質性を規定する分子メカニズムを実証することを目的とする。本年度は、HIV1-GFP感染ヒト化マウス由来のHIV-1産生細胞および非産生細胞のSingle-cell RNA-sequencing (scRNA-seq)のデータから、「ウイルス産生」、「ウイルス抑制」、「死滅」状態の細胞ごとの細胞異質性を、バイオインフォマティクス解析により明らかにした。続いて、これらの異質性を規定する遺伝子として、インターフェロン誘導性遺伝子 (ISG)、細胞死関連遺伝子、およびその他の宿主遺伝子から、HIV-1産生量と正負に相関のある遺伝子を同定した。具体的には、HIV-1 RNA、ISG、細胞死関連遺伝子群、宿主遺伝子の各発現パターンによる細胞の分類間の相関性を機械学習的手法により解析し、異質性を規定する候補遺伝子を抽出した。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、HIV1-GFP感染ヒト化マウス由来のHIV-1産生細胞および非産生細胞のSingle-cell RNA-sequencing (scRNA-seq)のデータを用いて、「ウイルス産生」、「ウイルス抑制」、「死滅」状態の細胞ごとの細胞異質性を、バイオインフォマティクス解析により明らかにした。感染細胞ごとの「ウイルス産生」の異質性は、HIV-1 RNA発現量に基づく分類により解析した。感染細胞ごとの「ウイルス抑制」の異質性は、インターフェロン誘導性遺伝子 (ISG)の発現パターンに基づく分類により解析した。感染細胞ごとの「死滅」の異質性は、細胞死関連遺伝子群の発現パターンに基づく分類により解析した。さらに、感染細胞ごとの未知の異質性を、全遺伝子の発現パターンに基づく分類により解析した。続いて、これらの異質性を規定する遺伝子として、ISG、細胞死関連遺伝子、およびその他の宿主遺伝子から、HIV-1産生量と正負に相関のある遺伝子を、バイオインフォマティクス解析で同定した。具体的には、HIV-1 RNA、ISG、細胞死関連遺伝子群、宿主遺伝子の各発現パターンによる細胞の分類間の相関性を機械学習的手法により解析し、異質性を規定する候補遺伝子を抽出した。
バイオインフォマティクス解析により同定された細胞ごとの異質性を規定する遺伝子について、培養細胞を用いたウイルス学実験により、その機能を解析する。さらに、それらの遺伝子が、感染細胞の異質性に与える影響を実験的に解析する。具体的には、当該遺伝子を過剰発現したCD4+ T細胞株、あるいはCRISPR/Cas9システムを用いて当該遺伝子をノックアウトした細胞を作出する。次に、それらの細胞におけるウイルス増殖について、レポーターアッセイ、ELISA法、ウェスタンブロット法、フローサイトメトリー法などで解析することで、各遺伝子がウイルス複製・増殖に与える影響を解析する。
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Journal of Virology
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