研究実績の概要 |
実験心理学・認知科学分野で発展してきた認知モデルである信号検出モデル(Signal Detection Model, SDM)と心理測定分野で発展してきた測定モデルである項目反応モデル(Item Response Model, IRM)との関係についての予備的検討を起点として,両者の良い性質を兼ね備えたモデルである転置型項目反応モデル(transposed Item Response Model, tIRM)の開発に従事し,当該モデルを完成させたことが主な実績である。このモデルは,SDMとは異なり項目の特性を連続量として測定しつつ,IRMとは異なり認知プロセスの個人差を詳細に分析する必要のある実践において,その機能を発揮するものである。こうした実践の具体例として画像データベース管理を位置づけ,試行ごとのデータを公開しておりtIRMによる分析に適していると考えられる心理学研究用画像データベースを予備的に調査し,そこで同定された二種のデータベースへのモデル適用を開始した。うち1つのデータベースにおいては,tIRMの一種である転置型段階反応モデル(transposed Graded Response Model, tGRM)を適用した結果,画像内容の道徳性に関して多数派と真逆の評価を下す個人,いわば逆転個人の存在を検出し,逆転の程度を連続量で測定できることを確認した。この際生じる符号の識別性の問題に対して,マルコフ連鎖モンテカルロ(Markov Chain Monte Carlo, MCMC)法で得られたサンプルの事後処理に基づく従来法に比べてより簡便な方法として,MCMCのチェインの初期値の符号の事前設定に基づく対処法を試験的に運用した。この方法は,妥当となる条件をシミュレーションにより確定したのち,符号識別法として正式に実装する予定である。
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