研究課題/領域番号 |
20J23328
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中谷 佳萌 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 共鳴理論 / 原子価結合理論 / 非直交軌道 / 局在スピン / 化学結合 |
研究実績の概要 |
2021年度は主に分子における局在スピンの概念について考察した。化学結合や化学反応は電子スピンの結合とその組換えとして説明されてきた。スピン相関の情報は多核金属錯体など分子磁石の電子構造の理解にも用いられる。しかし分子全体に渡り非局在化された軌道で構成される波動関数から、それらの化学的情報を得ることは一般に容易ではない。こうした背景のもと結合状態の分析を意図して、スピン結合状態に注目した「局所的一重項」および「局所的三重項」と呼ぶべき状態の関数形を定義し、それを波動関数から抽出する演算子を構成した。これには非直交軌道に対する第二量子化形式を用いた。加えて局所的スピン結合状態の各々を数値的に評価するため、密度行列に基づいて各状態の重みを定式化した。ラジカル引抜きや励起錯体の形成など二、三の反応過程に対する量子化学算に上述の方法を適用し、結合形成過程において局所的一重項状態の重みが増加するのに伴い、局所的三重項状態の重みが減少することを示した。 並行して2020年度に整備した分子軌道波動関数を共鳴構造にマッピングする解析法の応用を進めた。具体的には芳香族求電子置換反応における重要な中間体である、Wheland中間体の価電子構造を共鳴理論的に検討した。この分子における五炭素中心四パイ電子系に対して、考え得る全ての共鳴構造の重みを数値的に評価し、ふたつの正電荷がメタ位の負電荷を囲んだ構造の寄与が最も大きいことを明らかにした。またこのカチオン中間体における溶媒和による価電子状態の変化が置換基効果と比べて小さいことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
局在スピンを基礎とした化学結合概念とその定量的評価の方法について重要な進展を得た。学術誌と学会を通じた結果の公表も順当に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
上述の知見を反映した非経験的電子構造法の研究を進める。並行して2020年度と2021年度に開発した方法の応用計算を進める。
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