研究課題
2021年度には、分子内の電子対に着目して反応系の電子波動関数を解析し、一重項型と三重項型に分類される電子対の状態が各々結合性と反結合性に関連づけられるという数値計算の結果を得ていた。2022年度には、この知見を基に、電子対概念に基礎を置く試行波動関数を用いた電子状態計算の方法を主に検討した。電子構造描写の出発点を結合概念に置くことにより、強い電子相関の記述や、非局在化された分子軌道や配置間相互作用の解釈における困難の一部を解消することを意図した。具体的には、試行波動関数として二電子関数の反対称化積をとりながら、従来の一重項型二電子関数に3種の三重項型の寄与を混ぜることで変分的自由度を高める方法を定式化した。同法ではスピン混入が生じ、スピン対称性が満足されない代わりに、原子価結合法でいう単一の共鳴構造に相当するような試行波動関数によりながら、共鳴原子価結合の効果が部分的に取り込まれている。定式化した波動関数の性質を調べるために、まずハイゼンベルグモデルの枠組みで試行波動関数を最適化するための変分方程式を導出し、自己無撞着場法に基づくその数値解法を開発した。同法を幾つかの不飽和炭化水素分子に対して適用し、非ケクレ分子であるテトラメチレンメタンやテトラメチレンエタンなどに対し、スピン対称性の破れたより安定な解が存在することを明らかにした。この結果は学術誌を通じて公表した。その結果を受け、同じ着想を非経験的電子状態理論の枠組みに適用した以下の結果は、学術誌に投稿中である。試行波動関数に対する変分方程式を導き、軌道最適化を含む自己無撞着場法の計算スキームを開発した。同法を静的相関の強い4つの水素原子からなる系に適用し、従来の一般化原子価結合法をエネルギーの点で改善することを示した。数値計算の便宜上用いた幾つかの近似を無くすことで、系によってはより安定な解が得られる可能性がある。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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