研究課題/領域番号 |
20J23332
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
牟禮 あゆみ 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 栄養 / 代謝 / 成長 / 酵母 / 細菌 |
研究実績の概要 |
自然界で、動物は他の生物を餌として摂食し成長する。本研究では、餌となる生物が、摂食者の成長を支える栄養素の供給源として果たす役割の解明を目指す。モデル生物のキイロショウジョウバエは、自然界では、真菌、特に子嚢菌酵母(以下、酵母とする)と、細菌を主とする共生微生物によって発酵した果物を餌としている。酵母などの微生物は、果物に含まれない、あるいは含まれるが微量である栄養成分の供給源として、幼虫の成長に必須の役割を担っている。しかし、共生微生物叢がどのような栄養素を供給し、その栄養素が幼虫体内でどのような分子機構によって幼虫の成長を支えているかについては、依然として不明な点が多い。これまでに、野外でショウジョウバエが摂食する発酵餌(野外餌)中の微生物叢の構成が、発酵の進行に伴い変化することを明らかにした。さらに、野外餌中の微生物を単離して、無菌化処理した幼虫に与えることで、摂食した幼虫が蛹まで成長できる微生物種と、幼虫の蛹化が顕著に遅れる、あるいは全く蛹化できない微生物種を得た。加えて、野外餌由来の酵母・細菌を混合して無菌の幼虫に与え、発生率を調べる実験系を構築した。この系を用いて、幼虫の成長に適した微生物叢の構成を探索し、幼虫の成長に必要な微生物叢構成の条件を見出した。今後、微生物叢がどのような栄養素を供給し、宿主である幼虫にどのように作用することで成長を支えているか、その分子機構の解明を目指す。加えて、複数の微生物種の間での相互作用が、微生物叢形成や宿主への作用に果たす意義についても解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単離微生物に加えて、複数の単離微生物種を混合して無菌幼虫に与えたときの影響を比較解析することで、微生物叢に存在する微生物種のうち、どのような種の組み合わせが幼虫の成長を支えられるかについて検討を行った。その結果、幼虫の成長を支えられる微生物種の組み合わせについて、複数の条件を見出した。そこで、幼虫の成長を支える効果が異なる、複数の微生物叢の間で成分を比較する方針を立て、メタボローム解析に向けた予備実験を進めつつある。
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今後の研究の推進方策 |
共生微生物が供給し、幼虫の成長を支える栄養素を同定するために、野外餌から単離した微生物株を単独で、あるいは他株と混合して培養し、菌体と培地のメタボローム解析を行う。得られた結果を条件間で比較し、幼虫の成長を支えられる条件で多く産生される代謝産物を栄養素の候補とする。さらに、候補のうち実際に幼虫の成長に寄与する栄養素を同定する目的で、成長を支えられない条件の餌に候補代謝産物を添加し、幼虫の成長が回復するかを検証する。並行して、栄養素の有無に対する幼虫の応答を調べるために、微生物を摂食した幼虫のRNA-seq解析を行う。データ解析時には、特に、栄養条件により活性が変化するシグナル経路に注目する。具体的には、栄養条件間で、どのようなシグナル経路の下流で調節される遺伝子の発現が変動するかを調べる。さらに、同定した経路の関連遺伝子を欠損あるいは発現抑制した幼虫に微生物を摂食させ、栄養条件による幼虫の成長促進・抑制が打ち消されるかを検証する。加えて、餌条件に応じて幼虫の代謝にどのような変化が起きるかを解析する。具体的には、レポーター系統を用いた腸や脂肪組織等における代謝関連遺伝子の発現解析、脂肪組織におけるトリアシルグリセロール蓄積量評価、同定した栄養素との関連が予想される代謝産物の量の測定を行う。
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