研究課題/領域番号 |
20J23335
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
麻 実乃莉 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | リポペプチド / MHCクラス1 / エイズウイルス |
研究実績の概要 |
所属研究室のサルウイルス感染モデルを用いた解析から、ウイルス固有のリポペプチドを提示するMHCクラスI分子(LP1)が発見された。本研究では、サルで認められたLP1の構造に着目し、3つのアプローチからヒトLP1の同定とその機能の解析を行った。
生化学レベル:アカゲザルLP1分子の構造から、脂質を収容するポケットの底部に存在する1アミノ酸に着目した。同一のアミノ酸を持つHLAクラス1アリル(LP1a)候補を絞り込み、そのリポペプチド結合能を検証した。その結果、リポペプチド結合LP1a複合体の存在が明らかとなった。そこで、LP1a複合体の結晶化を行い、高解像度でのX線結晶構造を解明した。また、LP1a複合体がペプチドを結合する場合と、リポペプチドを結合する場合を比較するために、ペプチド結合LP1a複合体のX線結晶構造も解析した。その結果、各リガンド収容時における構成アミノ酸の寄与が明らかとなった。 細胞レベル:LP1分子がリポペプチドを結合するためには、細胞質で生成したリポペプチド前駆体が適切な分解(プロセシング)を受けたのち、LP1分子との会合の場である小胞体内腔に輸送される必要がある。LP1分子と異なり、従来のペプチド提示HLAクラスI分子の発現と機能は、小胞体膜に存在するペプチド輸送体(TAP)に深く依存することに着目し、TAP欠損細胞株の樹立を完了した。また細胞内でリポペプチドが産生される過程を推定し関連遺伝子の選択を行い、遺伝子クローニングを完了した。 個体レベル:LP1a高発現トランスジェニックマウスを作出し直し、安定的に維持している。このマウスから採取した脾臓細胞をモデルリポペプチド存在下で培養した結果、複数回の刺激後に、抗原特異的に増殖するT細胞群を複数認めた。アッセイの結果、これらの細胞がリポペプチド特異的にサイトカインを産生することを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ヒトリポペプチド提示アリル(LP1a)の生化学レベルでの解析に注力し、LP1aに関連する新たに2種類の結晶構造解析を解明した。その結果、リポペプチドを結合する場合のアミノ酸レベルでの構造変化をとらえることができ、この成果は現在論文投稿中である。また、細胞レベルでの解析では、LP1a発現に寄与すると考えられる候補の遺伝子を選択、クローニングを完了している。さらに、個体レベルでの解析では、リポペプチド特異的LP1a拘束性T細胞の存在証明に向けて最善のセットアップを行った。個体レベルにLP1aを発現するマウスを作出し直し、脾臓細胞のすべての画分で高輝度にLP1を発現することを確認した。また、樹状細胞やLP1a高発現のセルラインを樹立することで、抗原提示細胞側も最適化した。生化学レベルの検証で研究が進展し、さらに翌年度に向けた実験準備を行ったことで、今後の研究が飛躍することが期待できる。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
生化学レベルでのLP1a-リポペプチド結合能が結晶構造解析によって明らかとなり、今後は細胞レベル、個体レベルでの解析に注力していく予定である。細胞レベルでは、TAPノックアウト細胞の準備と、候補遺伝子のクローニングは終了しているため、今後は候補遺伝子やサイトカイン刺激等によるLP1a発現の寄与を検証していく。また、個体レベルでの解析では、LP1a高発現マウスの作出、抗原提示細胞の最適化を完了した。また、すでに用意してある検出ツール(LP1a特異的抗体やLP1aテトラマー)を使用することも可能である。現在、リポペプチド搭載アジュバントを用いた免疫方法の改善に注力している。これらのセットアップを踏まえて、リポペプチド特異的かつ、LP1a拘束性T細胞の存在を証明し、個体レベルにおけるLP1aの機能を明らかにする。
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